約 758,488 件
https://w.atwiki.jp/reticulant/pages/132.html
ドグマアトランタル デッキの解説 【ドレッドギンガ】の要領で、《D-HERO ドレッドガイ》から《No.6 先史遺産アトランタル》 そして《D-HERO ドグマガイ》へと繋げようというデッキ。 主にランク6は《D-HERO ダッシュガイ》《D-HERO ディアボリックガイ》 《氷結界の龍 ブリューナク》から繋げることになります。 《氷結界の龍 ブリューナク》は《終末の騎士》等の星4+《ゾンビキャリア》ですね。 即座に作れ、《リビングデッドの呼び声》を使い回せるのがポイントです。 基本的に《D-HERO ドレッドガイ》からは《D-HERO ダッシュガイ》 《D-HERO ディアボリックガイ》を蘇生することになりますが、 《ゾンビキャリア》があれば《D-HERO ダイヤモンドガイ》でも星6を用意することができ、 《終末の騎士》の通常召喚でも可能なあたり、ランク6を作ること自体は割りと容易です。 しかし問題もいくつかあり、それは《No.6 先史遺産アトランタル》で ライフを半分にするために装備するナンバーズを墓地へ落としておくことにあります。 星4軸だと《オーバー・デステニー》が採用し辛く、展開力に難を感じます。 《リビングデッドの呼び声》を絡ませるか、《キラー・トマト》の前線維持からの《No.39 希望皇ホープ》を狙うことになります。 また、《終末の騎士》等の星4と《ゾンビキャリア》、そして《D-HERO ディアボリックガイ》があるならば、 ランク6のナンバーズ《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》を出すことも可能です。 デッキレシピ モンスター(16枚) 終末の騎士×2枚 ゾンビキャリア キラー・トマト×2枚 カードカー・D×2枚 E・HERO エアーマン D-HERO ドレッドガイ×2枚 D-HERO ドグマガイ D-HERO ディアボリックガイ×2枚 D-HERO ダッシュガイ D-HERO ダイヤモンドガイ×2枚 魔法(13枚) 貪欲な壺 幽獄の時計塔×3枚 大嵐 増援 死者蘇生 強欲で謙虚な壺×3枚 テラ・フォーミング デステニー・ドロー×2枚 罠(11枚) 神の宣告 激流葬×2枚 リビングデッドの呼び声×3枚 サンダー・ブレイク×2枚 エターナル・ドレッド×3枚 エクストラデッキ No.15 ギミック・パペット-ジャイアントキラー No.25 重装光学撮影機(フルメタル・フォトグライド)フォーカス・フォース No.39 希望皇ホープ No.6 先史遺産アトランタル ガチガチガンテツ スクラップ・ドラゴン スターダスト・ドラゴン ダイガスタ・エメラル ラヴァルバル・チェイン 機甲忍者ブレード・ハート 聖刻神龍-エネアード 大地の騎士ガイアナイト 超銀河眼の光子龍(ネオ・ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン) 氷結界の龍 ブリューナク 煉獄龍 オーガ・ドラグーン デッキ集へ
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/40108.html
終焉の時計 ジ・エンド R 水 8 クリーチャー:アウトレイジMAX 3000 ■S・トリガー ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、ターンの残りをとばす。 ■ラスト・バースト カタストロフィ・デイ 闇 10 呪文 ■クリーチャーをすべて破壊する。 作者:骨 終焉の時計と書いてカタストロフィと読みたいです 評価 選択肢 投票 環境 (2) 強い (0) 普通 (0) 使いたい (0)
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/46605.html
《ラグナロク・チャージャー》 ラグナロク・チャージャー R 水文明 (3) 呪文 ■S・トリガー ■この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりにマナゾーンに置く。その後、ターンの残りをとばす。(次のプレイヤーのターンをすぐに始める) 作者:wha 《終末の時計 ザ・クロック》 【企画】行くぜデュエマの頂上へ!オリカ・デュエキングMAX2023! カードリスト:wha カードリスト2:wha 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/40385.html
終焉の時計 ジ・エンド R 水 8 クリーチャー:アウトレイジMAX 3000 ■S・トリガー ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、ターンの残りをとばす。 ■ラスト・バースト カタストロフィ・デイ 闇 10 呪文 ■クリーチャーをすべて破壊する。 作者:骨 終焉の時計と書いてカタストロフィと読みたいです 評価 選択肢 投票 環境 (2) 強い (0) 普通 (0) 使いたい (0) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16157.html
妙な所で耳聡い奴だ。 聞き流してもいい所だったと思うけど、唯にとっては聞き逃せない話なのかもしれない。 そういえばメールで梓が家に泊まった事は書いてなかったしな。 別に隠さなきゃいけない話でもないし、私は正直に唯に説明する事にした。 「いや、昨日、梓が私の家に泊まりに来たんだよ。 私が誘ったからってのもあるけど、梓も私と話したい事がまだまだあったみたいでさ。 キーホルダーの事で、この一週間、ろくに話もできなかったしな。 だから、少しでもその時間が取り戻せればって、私も思ってさ。それで……」 「ずるいよ、りっちゃん!」 「いや、ずるいっておまえ……」 「私だってまだあずにゃんとお泊まり会なんてした事ないのにー! しかも、『私の部屋』って事は、りっちゃんの部屋に泊まったって事だよね? ずるいずるい! 私も私の部屋であずにゃんとお泊まり会したいー! あずにゃんとパジャマパーティーしたいー! あずにゃんとパジャマフェスティバルしたいー!」 「落ち着け」 軽音部で梓と一番仲がいいのは多分唯だ。 それを考えると、梓は誰より先に唯の部屋にこそ泊まりに行くべきだったんだろう。 実際に梓は、憂ちゃんの部屋には何回か泊まりに行った事があるらしい。 ただ唯のこの様子を見ると、梓じゃなくても唯の部屋に泊まるのは若干躊躇うな。 何をされるか分からんぞ。 その意味では、梓は賢明だったとも言えるかもしれん。 念のため、私は唯にそれを訊ねてみる。 「一つ訊いておくが、 その梓とのパジャマフェスティバルとやらで何する気だ」 「別に何も変な事はしません! 猫耳付けてもらったり、お風呂に一緒に入ったり、 私のベッドで一緒に寝たりしてもらうだけなのです!」 「それが既に変な事だという事に気付こう」 「えー……。 憂にはたまにやってもらってる事なのに……」 「そうか……。 おまえと憂ちゃんの関係に関してはもう何も言わんが、それを梓に求めるのはやめてやれ。 妹と後輩は違うものだからな。 違うものに同じ行為を求めるのは、お互いを不幸にするだけだぞ……」 「りっちゃんが珍しく知的な発言をしてる……」 「珍しくとは何だ!」 少し声を強くしてから、私は両手で唯の頬を包み込む。 それから指で唯の頬を掴むと、 「おしおきだべー」と言いながら外側に力強く引っ張った。 「いひゃい、いひゃいー……! ごへんなさいー……!」 そうやって痛がりながらも、唯の表情は笑っているように見えた。 私が両側に頬を引っ張ってからでもあるんだけど、 それを前提として考えても、やっぱり唯の顔は嬉しそうに微笑んでるように見えた。 唯をおしおきしながら、私も気付けば笑顔になっていた。 これが軽音部なんだよなあ……、って何となく嬉しくなってくる。 いや、世間一般の軽音部とは大幅に違ってるとは思うけど、 こういうのこそが私達で作り上げた、私達だけの軽音部なんだ。 「もーっ……。 ひどいよ、りっちゃん。 お嫁に行く前の大切な身体に何してくれるの?」 十秒くらい後に頬を指から解放してやると、 唯は自分の頬を擦りながら軽い恨み事を口にした。 「心配するなって。 四十過ぎてもお嫁に行けてなかったら、私が責任取ってやるよ」 「えっ、りっちゃんがお嫁に貰ってくれるの?」 「いや、聡に嫁がせてやる。 そして私は小姑として、田井中家嫁の唯さんをいびってやるのだ。 あら、唯さん。このお味噌汁、お塩が濃過ぎるんじゃありませんこと?」 「りっちゃんの弟のお嫁さんか……。 それもありかもー」 「ありなのかよ!」 「いやー、りっちゃんの家族になるのって何か楽しそうだしー。 それに、そうなると私がりっちゃんの妹になるんだよね? りっちゃんの事をお姉ちゃんって呼ばなきゃだよね。 ね、お姉ちゃん」 「自分で振っといて何だが、もうこの話題やめにしないか。 何つーか、それ無理……。 唯にお姉ちゃんって呼ばれるとか、正直無理……」 「あっ、お姉ちゃん、赤くなってるー」 「だから、やめい!」 また私が軽くチョップを繰り出すと、 唯が楽しそうに笑いながら頭でそれを受け止める。 もう何が何やら……。 色々と悩んでた事もあったはずだけど、 軽音部の仲間と居ると、特に唯と居ると悩みが何もかも吹き飛んじゃう感じだ。 簡単に言うと唯が空気を読めてないだけなんだろうけど、 世界の終わり直前の空気ってのは本当は読む必要なんてないのかもしれない。 唯と居るとそんな気がしてくるから不思議だった。 私は溢れ出る笑顔を止められないまま、笑顔で続ける。 「もういいから、早く音楽室に行こうぜ。 梓もムギもそろそろ待ちくたびれてる頃だよ。 それに心配しなくても大丈夫だぞ、唯。 昨日は別に梓と二人きりでパジャマフェスティバルをしたわけじゃないんだ。 ムギと純ちゃんも泊まりに来て、四人でお喋りしてたんだよ。 梓と二人きりのパジャマフェスティバルは、今度おまえが存分にやればいい」 「そうなんだ……。 それもちょっと残念かなー。 あずにゃんとりっちゃんが、 私の知らない所でラブラブになったのかと思って楽しみにしてたのに……」 「おまえは一体、何を求めてるんだ……。 まあ、とにかく、そんなわけで早く戻ろうぜ。 私なんか誤魔化して出て来ちゃったわけだから、そろそろ不審に思われてるだろうしさ」 「そういえば、どうやって誤魔化して出て来たの?」 「『そろそろ唯か澪が来る頃だろうから、ちょっと校門まで見に行ってくる』ってさ。 澪はまだ来てないけど、今からおまえと一緒に戻れば嘘にはならないだろ。 過去を捏造する事で有名な私ではあるけど、 ネタ無しでの誤魔化しや捏造は意外と心苦しいんだよ。 私ってば結構善良で臆病な小市民だからさ」 「どうもご迷惑をお掛けしました、りっちゃん隊長」 「分かればよろしい、唯隊員」 「あ、でも、迷惑掛けついでに最後に一つだけ訊きたいんだけど、いいかな?」 「何だね、唯隊員」 「あずにゃん、どうやって納得してくれたのかなって。 キーホルダーを失くして、一週間も捜し回ってて、 そのキーホルダーはまだ見つかってないんだよね? でも、あずにゃんはりっちゃんのおかげで、キーホルダーを失くした悩みが解決したんでしょ? 私、それを一番聞きたくて、りっちゃんに教室に来てもらったんだ……」 そう言った唯の表情は、今まで見た事が無いくらいに真剣だった。 一番聞きたかったってのも、本心からの言葉なんだろう。 だったら、私にできるのは唯の言葉に真剣に答えてやる事だけだ。 「別に私のおかげじゃないよ、唯。 梓は私達を信じてくれたんだ。言葉に出すのは少し照れ臭いけど、私達の絆ってやつをさ。 梓はキーホルダーっていう形のある思い出じゃなくて、 形が無くて目にも見えない私達の思い出や絆を信じてくれる気になってくれたんだ。 私は梓がそれを信じられるように、ほんの少し梓の背中を押してあげただけ。 その絆を私自身も信じようと思っただけなんだ。 私にできたのはそれだけの事で、それを信じられたのは梓自身が強かったからだよ」 「そっか……。 でも、それならやっぱりあずにゃんが安心できたのは、りっちゃんのおかげだよ。 形が無いものを信じさせてあげられるなんて、すごく大変な事だよ? やっぱり、りっちゃんはすごいなあ……。流石は部長だよね……。 だって……」 「だって……?」 私が呟くと、唯は机に掛けていた自分の鞄の中にゆっくりと手を突っ込んだ。 それから鞄の中にある何かを探し当てると、おもむろにそれを私に手渡した。 何かと思い、手渡されたそれに私は視線を向ける。 「写真……か?」 自分自身に確かめるみたいに呟く。 いや、確かめるまでもない。唯が私に手渡したのは、確かに写真だった。 軽音部の皆が写った一枚の写真。 写真を撮るのが好きな澪が所属してる我が軽音部だ。 部員の皆が写った写真は別に珍しくも何ともないけど、その写真は何処か不自然な写真だった。 その写真の中では、私だけ前に出てておでこしか写ってなくて、唯、澪、ムギは後ろで三人で並んでいる。 勿論、部員皆の写真なんだから、梓もその写真の中に居た。 でも、その梓の姿だけが不自然に浮いている。 空気や雰囲気的な意味で浮いてるんじゃなく、梓の上半身だけが本当の意味で宙に浮いていた。 別に心霊写真ってわけじゃない。 私達四人が写った写真に、別撮りの梓の写真を貼り付けてるってだけの話だ。 つまり、単純な合成写真ってやつだ。 「私ね……」 私がじっくりとその写真を見つめていると、不意に唯が囁くみたいに喋り始めた。 「昨日、憂とその写真を作ったんだ……。 あずにゃんの悩みが何なのかは分からないけど、 離れてたって私達はずっと一緒だよ、ってそれを伝えようと思って……。 別々に撮った写真でも、こんな風に一緒に居られるみたいにねって。 でも、この写真、もう無駄になっちゃったかな……?」 そこでようやく私は唯が寂しそうな顔をしてる本当の理由に気付いた。 自分が間違えた事を言ったとは思っちゃいないけど、 ある意味で私の言葉は失言だったのかもしれない。 私が私で梓の悩みに向き合ってる時に、 唯も別の方法で梓の悩みに向き合おうとしてた。 目指した場所は一緒だけど、二人の選んだ道は別々で、 しかも、ほんの少しのタイミングの問題で、 私の選んだ道が梓の悩みを晴らしてあげられる結果になった。 梓が形の無い絆を信じてくれる結果になった。 唯の選んだ道も間違っていないのに、 結果的には唯の選んだ方法は私と正反対になってしまっていたんだ。 だから、唯はほんの少し寂しそうなのかもしれない。 私を羨ましく思ってしまうのかもしれない。 でも、羨ましいと思ってしまうのは、私も一緒だ。 私は手を伸ばして、唯の頬を軽く撫でる。 「何言ってんだよ、唯。 思い出の品が必要なくなっちゃうなんて、そりゃ極論だろ。 形の無いものを信じるのは大切な事だけどさ、形があるものだって大事だよ。 何のためにお土産があるんだ。何のために世界遺産は残ってるんだ。 自分達のしてきた事を形として残したいからじゃんか。 自分達の思い出を目に見える形にしておきたいからじゃんか。 私達だって、旅行先だけじゃなく、 撮る必要がほとんど無い時でもたくさん写真を撮ってたのは、 思い出を形にしておきたかったからだろ? 色んな事を忘れたくなかったからだろ? だからさ、おまえの作った写真は無駄にはなんないよ。 梓もきっと喜ぶ。 キーホルダーの代わりってわけにはいかないだろうけど、 新しいおまえとの絆として大切にしてくれるよ」 「でも……、ううん、そうだよね……。 あずにゃん、喜んでくれるよね……。 ごめんね。私、りっちゃんの事が羨ましかったんだ。 私が考えてたのより、ずっと素敵な方法であずにゃんを支えてあげられるなんて、 すっごく羨ましくて、ちょっと悔しかったんだ……。 あずにゃんの事、ずっと見て来たつもりだったのに、 あずにゃんの事でりっちゃんに先を越されちゃったから……。 それが悔しくて、それを悔しがっちゃう自分が、何だか一番悔しかったんだよね……。 ごめんね、りっちゃん……」 「馬鹿、私だっておまえの事が羨ましかったよ、唯」 「私の事が……?」 うん、と私は唯の言葉に頷く。 選んだ道は違うけど、違うからこそ羨ましかった。 私には唯とは違う方法で梓を支える事ができた。 でも、唯は私とは違う、私には思いも寄らない方法で梓を支えようとしてた。 それが羨ましくて、ちょっと悔しくて、とても嬉しい。 「特に何だよ、おまえ。 こんな写真作っちゃってさ……、カッコいいじゃんかよ。 何、カッコいい事やってんだよ、唯。 ホント言うとさ、私なんか、梓の前でオロオロしてただけだったんだぜ? 梓の悩みが何か分からなくて、梓の悩みを探る事ばかり考えてた。 でも、違ったんだな。他の方法もたくさんあったんだよな。 梓の悩みが何なのか分からなくても、 おまえみたいな方法で支えてやる事だってできたんだ。 新しい思い出で、悩みを一緒に抱えてやる事だって……。 私はそれを思い付かなかった自分が悔しいし、それを思い付けたおまえが羨ましいよ。 だから、お相子だな。 私もおまえも、自分にできない事をしたお互いが羨ましいんだ。 悔しい事は悔しいけどさ、今はそれを嬉しく思おうぜ。 二人とも梓の事を真剣に考えて、別々の解決策を見つけられたんだからな。 それってすごい事じゃないか?」 「すごい……かな。 ううん、すごいよね。 後輩を助けてあげられる方法を先輩が別々に二つも思い付くなんて、 そんなに大切に思われてるなんて……、あずにゃんの人徳ってすごいよね!」 「そっちかよ。 ……でも、確かにそうだな。 生意気だけどさ、そんなあいつが大切だから、私達も一生懸命になれたんだよな。 あいつが居なきゃ、私も私でいい部長を目指せなかったかもしれない。 その意味では梓に感謝しなきゃな」 「りっちゃんは最初から私達の素敵な部長だよ。 勿論、澪ちゃんやムギちゃんも素敵な仲間だもん。 やっぱり軽音部のメンバーは誰一人欠けちゃいけない素敵な仲間達だよね」 「あんがとさん。 おまえこそ、素敵な部員だよ、唯。 そもそもおまえが居ないと軽音部は廃部になってたわけだしな。 そういう世知辛い意味でも、私達は誰一人欠けちゃいけない仲間だ」 「それを言っちゃおしまいだよ、りっちゃん……」 笑いながら「まあな」と言って、唯に手渡された写真にまた目を下ろす。 いつ撮った写真かは思い出せないけど、若干写真の中の私達の姿が今よりも若く見えた。 大体、梓抜きで集合写真を撮る事なんて、 二年生になってからはほとんどなかったはずだから、 この写真は私達が一年生の頃に撮った写真なんだろう。 合成された梓の写真も多分梓が一年生の頃の写真に違いない。 いや、梓の写真の方は自信が無いけど。 梓ってば、中身はともかく、外見が全然変わってないからなあ……。 しかし、それより気になるのは写真の中の私の姿だ。 唯達は並んで仲睦まじそうに写ってるのに、何故だか私だけおでこしか写っていない。 いや、前に出過ぎた私が悪いのは分かってるけど、何となく納得がいかなかった。 私は腕を組み、頬を膨らませながら唯に文句を言ってみる。 「ところで唯ちゅわん。 どうして私だけ顔も写ってないこんな写真を選んだのかしらん? もっと他にいい写真があったんじゃないのかしらん?」 「えー、いいじゃん。 だって、この写真が一番私達らしいって思ったんだもん。 りっちゃんだって、一番りっちゃんらしく写ってるよ?」 「私らしい……か?」 「うん!」 29
https://w.atwiki.jp/to-love-ru-eroparo/pages/124.html
「ん? どーしたんだ?」 「え? べ、別になにも…」 リトは唯の視線の先を目で追っていく。すると―――― 「へ~、ああいうのしたいんだ?」 今度は唯が小さく呻いた リトの視線の先にあるのは、ゲームセンターの入口に設置されたUFOキャッチャー 「いいじゃん! やっていけば?」 「ち、違…私は別にあんな物…」 「まーいいじゃん。ちょっと行ってみよ?」 「え、え…ちょ……結城くん!?」 リトは言いよどんでいる唯を連れてUFOキャッチャーに向かった ケースの中には、イヌやネコといった動物のぬいぐるみがいっぱい入っている 「かわいいなァ、ホラあのネコとかさ」 「う、うん。ちょっとかわいいかも…」 間近で見るかわいいネコのぬいぐるみに、唯の胸がときめく そんな唯の横顔を見ながらリトはふっと笑みを浮かべた 「…ったく、しょうがねーなー」 「え?」 「オレが取ってやるよ。得意なんだこーゆうの! で、どれが欲しい?」 「で、でも…」 「任せとけって!」 唯は言葉に詰まってしまった (そ、そんな……いきなりそんな事いわれても…) 目の前にはつぶらな瞳で見つめてくる動物達。この中からどれか一つなんてとても選べない じーっとケースの中を凝視する唯の横顔に、リトは笑みをこぼす 「にしても、古手川ってぬいぐるみとか好きだったんだな」 「え!?」 びっくりした唯は慌ててケースから視線を逸らす 「ち、違うわ! わ、私は別に…あ、あなたがどれか選べなんて言うから私はっ」 「わ、わかったから! それで、どれか決まったのかよ?」 赤くなった顔を隠すようにリトから体を背けると、唯はケースの中の一体のぬいぐるみを指差した それは、さっきリトがかわいいと言ったネコのぬいぐるみ リトは一つ気合を入れると、ボタンに手を乗せる 「よ~し…」 クレーンとぬいぐるみの位置を測るリトの横顔を唯はチラリと覗き見る ボタンを慎重に操作するリトは真剣そのものだ (そんなに真剣にならなくても…) しばらくその横顔を見つめていると、機械の中からガタンと音が聞こえた リトはしゃがみこんで中からぬいぐるみを取り出すと、それを唯に差し出す 「ホラ、これでよかったんだろ?」 「あ、ありがと」 少し戸惑いがちにぬいぐるみを受け取る唯に、リトは笑った ニッと歯を見せて笑うリトは、まだあどけない少年の様な顔つきで さっきまでのあの真剣な顔付きとのギャップに、唯は目を丸くした 「なんだよ?」 「べ、別になにもないわ…。ただ、こういうヘンに細かい事だけは得意なんだって思っただけよ」 「なんだよそれ…」 げんなりとするリトから体を背けると、唯はぬいぐるみをそっと胸に抱きしめた (結城くんってホントにいろんな顔をする…) それから二人は―――― サッカーショップのサッカー中継で 「おお、すげー! やっぱジェラードっていつまで経ってもカッコいいよなー! 昔はオーエンとかも好きだったけどやっぱ…」 (…サッカー? 結城くんってサッカー好きなんだ!) アイスクリームショップで 「お前さっき食べたばっかじゃん。まだ食べるのかよ…」 「う、うるさいわね! 歩いたらお腹がすいたのよっ」 ネイルサロンのウインドウで 「あ、タミーテイラーのキューティクルオイル! 新しいの出たんだ…」 「タ、タミ…キューテ? へ?」 「キューティクルオイル! 爪のお手入れに使うのよ」 「へ~」 そして時刻は夕方を回り、夕暮れの公園 二人はブランコに乗りながらぼーっとしていた。どちらもなにも話さない それでも、特に居心地が悪いワケでも、雰囲気が悪いワケでもない なにも話さないけれど、窮屈じゃない、息苦しいとは感じない こんな時間すら楽しいと思えるそんな気分 黄昏色に染まりながら、やがて、リトがぽつりと呟く 「なあ古手川」 「ん?」 唯は俯いていた顔を上げて、リトの方を向く。リトの顔は夕日に照らされて赤くなっていた 「オレさ…今日こうやってお前と一緒にいろんなトコに行けて楽しかった」 「な、なによ…いきなり……」 ポっと赤くなる顔を隠す様に俯く唯 「古手川の新しい部分っていうかさ…。うまく言えないけど、ホントの古手川が見れたって言うかさ」 「……」 「とにかく、今日お前とこうやっていれたコトがすげーうれしかったんだ」 唯は俯いたまま黙ってリトの話を聞いている 「だからさ、もしよかったらまた…」 と、その時、話しの途中でリトのケータイが鳴り出した 「あっと、ゴメン…」 リトは後ろポケットからケータイを取り出すと耳に当てた 「はいもしも…」 『なにやってるのよ!!?』 「わっ!!」 受話口の向こうから聞こえる大声に、リトは思わずケータイを耳から離す 「み、美柑!? なんだよ?」 『なんだよ? じゃないよ!! あんたどこまで行ってるのよ? 私の本は? 買い物は? 今日の晩ゴハンどーする気なの?』 あっと言葉に詰まるリト 『なにしてるのか知らないけどさ、今すぐ帰ってこないと晩ゴハンなしだからね!!』 ブチっと電話を切った美柑の様子に、リトは慌ててブランコから飛び降りた 「ヤバっ! オレ買い物の途中だったんだ」 今度は唯がびっくりしてブランコから降りる 「ええ! 何してるのよ!? って、そっか…私のせいで…」 「別に古手川のせいじゃないって! オレが勝手にやったことだしさ! だから気にすんなって、な?」 心配ないよと笑うリトに唯は俯いていた顔を上げた 「でも、ホントに大丈夫なの?」 「まあ……ウチ帰ってご機嫌取りしないとダメかもしれないけどな」 冗談っぽく笑うリトに唯もつられてクスっと笑った (あ…やっぱ古手川って…) その小さな笑顔にリトは一瞬見とれてしまう 「どうしたの?」 「べ、別になにも…」 愛想笑いをしながら、リトは赤くなった顔を隠した 「じゃ、じゃあオレ帰るな。古手川はどーする?」 「私は…」 唯は何も言えなくなってしまった。当たり前とはいえ、いつかは来る別れの時 あまりにも楽しすぎて、もっと一緒にいたいと思ってしまって けれど、これ以上わがままを言えるはずもなくて 唯はリトから顔を背けた 「わ、私も今から帰るわ。というか、別に私の心配なんてしなくても平気よ!」 「そっか」 「う、うん」 どこか歯切れの悪い唯にリトはクスっと笑いかけた 「あのさ、今日こんな感じで終わっちゃったけど、オレ、またお前と一緒に遊べたらなって思ってる」 「え?」 「えっと……と、とにかく気をつけて帰れよ! また明日な古手川」 そう言い残し、リトはその場から走り去って行った その背中を見ながら唯はムッと頬を膨らませる 「もう……なんなのよ!? 言いたいことがあるならもっと…もっと…」 『今日こうやってお前と一緒に色んなところに行けて楽しかった』 『今日お前とこうやっていれたコトがすげーうれしかったんだ』 『また明日な古手川』 リトの言葉を思い出している内、いつの間にか赤くなっている顔に高鳴っている胸 「また明日…か」 唯はリトから貰ったぬいぐるみを胸に抱きしめると、誰にも見せたことのない笑顔を浮かべ、公園を後にした ぬいぐるみを抱え、意気揚々と帰宅した唯を待っていたのは、玄関先でイチャつく二人の影 「ん…ユウちゃ、ンッ…あ…ぁ」 大学生ぐらいの女を抱きしめながら、その体に手を這わせる遊 「な、な、な、何をやって…」 唯は二人の淫らな姿に顔を真っ赤にして絶句する 「ん…ちゅぱ、んッん…ぷはぁ」 糸を引かせながら唇を離すと遊は、手を振ってその女を見送った 名残惜しげに遊を振り返りながら唯の横を通り過ぎていく遊の彼女 唯は肩をぷるぷる震わすと、欠伸をしながら家に入っていく遊に詰め寄る 「ちょっとお兄ちゃん!!」 「あぁー?」 めんどくさそうに振り返る遊をキッと睨みつける唯 「家の前であんなコトするのやめてよっ!!」 「…別にいいじゃねーか。玄関なんだから」 「ダメに決まってるでしょ! あんなハレンチなこと!!」 遊は溜め息を吐くと、頭を掻きながら家の中に入っていく 「ちっ。相変わらずおカタイこって。そんなんじゃいつまでたっても男なんてできねーぜ」 「なっ!? 何言ってんのよ! そんなの…そん…なの……」 いつもの様にうるさい声が飛んでくると思っていた遊は、どんどん小さくなる唯の声に振り返った 「…そんなの…」 一人赤くなった顔を俯かせている唯の姿に、遊はニヤニヤと顔を歪ませる 「へ~、大好きな彼氏となんかいーコトでもあったのか? カワイイのもらってるじゃん?」 「ゆ、結城くんは彼氏とかそんなんじゃないわよっ!!」 遊は唯の言葉に笑みを深くした 「オレ、『ゆうきくん』なんて一言も言ってないけど?」 唯はもう声にならないのか、口をぱくぱくさせながら遊に何も言い返せないでいた その様子に遊はお腹を抱えて笑う 「もう!! お兄ちゃんなんて知らないからっ!!」 そう言い残し、唯は家の中に入っていった 唯は部屋に戻るなりベッドの上に寝転がった。その顔は不機嫌そのものだ 「まったく何考えてるのよ! お兄ちゃんはっ!!」 遊のニヤニヤした顔や態度を思い出すだけで、イライラしてくる おまけにあの言葉 『相変わらずおカタイこって。そんなんじゃいつまでたっても男なんてできねーぜ』 大きなお世話だと思った 「そうよ! そんなのいらないわよっ!!」 いつか学校でも言われた言葉 『あなた…恋をしたことがないんじゃなくて?』 そんなコトは不純だと思った 「恋愛なんて……ハレンチよ…」 けれど―――― 今日感じたコト、最近つい意識しちゃうコト ぼーっと今日一日の出来事を思い返していると、枕の隣に置いたネコのぬいぐるみと目が合った 唯はぬいぐるみを両手で持つと、お腹の上に乗せる 「結城くん…」 唯は小さくリトの名前を呟くと、そっとぬいぐるみを両手で抱きしめた そうしているとなんだか落ち着く 胸の奥にある不思議な感覚に唯の表情もやわらかくなる そっと胸に手を当てると、トクン、トクンと胸の鼓動が伝わる 心地いいような、あったかいような、そんな感覚 「結城くん……」 自然と頭に浮かぶリトの顔に赤くなる頬 もう一度名前を呼んでみる、もう一度…もう一度…… 何度かリトの名前を呟いた時、一階から自分を呼ぶ遊の声に、唯はハッとなった 「何やってるのよ…私…」 急いでベッドから起き上がると、唯はさっきまでの感情を胸の奥に押し込み、一階へと下りていった それからしばらくして 唯はお風呂からあがると、髪が乾かない内にダッカールピンで髪を留めて、いつもの様にタオルドライをしていく 唯は髪の手入れが好きだった 特に誰に褒められたワケでも、誰に勧められたワケでもないのだが それでも、雑誌で髪の美容の勉強をし、自分でもいろいろ調べてそれを実践したり そんな時間が好きだった どこか気持ちが安らぎ、楽しさとうれしさに小さな想いが生まれる それはほんの小さな小さな想い いつか誰かに褒められたり頭を撫でられたりしたいな そんなほのかな想いを抱いたりしていた 結城くん、今頃なにしてるのかな――――? 髪にトリートメントを馴染ませながらふと想うのはリトのコトだ 自分の髪や容姿に自信があるワケじゃない それでも最近は特に念入りにお風呂で体を洗い、髪の手入れの時間も知らず知らずの内に長くなっている 本当にどうしちゃったんだろう? 私―――― 鏡の中の自分に溜め息を吐くと、唯はドライヤーのスイッチを切りベッドに寝転がった 「明日はまたどんなコトをして私を困らせてくれるの? 結城くん…」 枕の横にあるネコのぬいぐるみの頭を撫でながらそう呟くと、唯はゆっくり目を閉じた 翌日の学校 相変わらずリトはララと休み時間一緒にいる 聞けば、二人は同棲してると言うではないか リトの話によると、ララは宇宙人で自分の家に居候してるというコトらしいが…… 頭では理解できても色々と納得できない部分がある それに―――― 仲良く話す二人を見ていると、どういうワケかチクリと胸の奥が痛む 別にハレンチはコトを、なにか問題を起こしてるワケでもないのに 面倒くさそうに、溜め息を吐きながら、それでも楽しそうに話すリトの横顔に (なんなのよ…コレは…) 本を読むフリをしながら、唯はそんなリトの様子をチラチラと見ていた 一緒のクラスになってから数ヶ月、日に日に印象が変わっていく結城リトという存在 今でも問題児には変わらない それでも、自分の気付かない部分で、自分の見えないところで、唯の中のリトの存在は大きくなっていた 仲良さそうに話す二人に胸がキュッと締め付けられる ララに向けられる笑顔がうらやましいと感じてしまう (…何考えてるのよ私は…) 唯はパタンと本を閉じると、次の授業の用意を始めた 6時間目の授業は体育 男子はサッカー、女子は走り幅跳び 時折、こっちをチラチラと盗み見てくる男子の視線を気にするクラスメイトの中で、 唯はひとりぼーっとリトのコトを見つめていた ボールを胸でトラップして、フェイントを入れて一瞬で相手を抜き去る (カッコイイ…かも…) 素直にそう感じてしまう。リトのいつもとは少し違う真剣な顔つき 相手を抜き去る時や、うまくクロスを上げた時に見せる笑顔 それは高校生というよりまだ少年の様なあどけない顔 (あんな顔するんだ…) リトは小柄な体型を生かして、ドリブルで何人も抜き去っていく と、逆サイドにパスを送ろうとした瞬間、バランスを崩して見当違いのところにボールを蹴ってしまう (何やってるんだか…) クラスメイトから文句を言われる姿に、唯はクスっと笑ってしまった 「――手川さん、古手川さん!」 「え!?」 自分を呼ぶ声に唯は慌てて振り返る 「次、古手川さんの出番なんだけど」 「え、ええ…」 いつの間にか自分の出番が回ってきたらしく、自分を呼びに来てくれたクラスメイトに、唯は愛想笑いで応える (もう! しっかりしなさい) そう呟きながら唯はスタートラインに立つと、少し深呼吸をして走り出した 少しすると後ろの方でなにやら男子生徒の騒ぐ声が聞こえてきた 気になったが、今はもう止まれない 勢いをつけて高くジャンプした唯は、着地と共に足に付いた砂を手で払い落としていく その時、ふいに目に入った光景に唯の手が止まった 女子生徒が見つめる先、男子生徒の輪の中に地面に倒れているリトの姿があった 「え…?」 だってさっきまでボールを――――…… 頭に浮かぶリトの姿と、現実の姿が重ならない 唯は急いでララのそばに駆け寄る 「何があったの?」 「リト…ボール蹴ってたらぶつかっちゃって……。すごい勢いだったから……大丈夫かな……」 いつもは見せないララの不安げな顔に、唯の顔もくもっていく 「じゃあ、私は結城くんを保健室に連れて行くから後の事は、西連寺」 「はい」 春菜は一歩前に出ると、佐清からこの後の支持を仰ぐ ただ、その顔は心なしか不安なものになっている 「リト…」 「心配すんなってララ! 大した事ねーって…ちょっとケガしただけだからさ!」 不安いっぱいな様子なララを安心させようと、リトは無理やり笑顔を作る 「…ぁ…の…」 唯は声が出なかった 足から血を流しているリトの姿に、言いたい言葉が山ほどあるはずなのに 声をかけられないでいた なんて声をかければいいのか一瞬迷ってしまった (結城くん…) 佐清に付き添われて校舎の中に入っていくリトの痛そうな表情に、ただ胸が締め付けられる (私は…) 考えるよりも先に、唯の足は自然と動き出していた 「あ! 唯!?」 ララの呼び声も、授業も置き去りにして唯は二人の後を追いかけて行った 唯が保健室に到着すると、リトは一人椅子座っていた 「あれ? 古手川? どーしたんだ?」 肩で息をしながら走ってきた唯にリトはキョトンとした表情で聞いてくる 「え!? わ、私は別にその…」 「え?」 息を整えるようにゆっくり保健室に入ってきた唯は、あさっての方向を見ながら呟く 「あ、あなたがケガをしたって言うから私は…」 「ああ、心配して来てくれたのか? ありがとな古手川!」 ニッコリ笑うリトに唯の顔はとたんに真っ赤に染まる 「か、勘違いしないでっ!! わ、私は風紀委員として来ただけで、別にそんな心配とかじゃないんだから」 突然怒り出す唯にリトは戸惑ってしまう (なんで怒るんだ? オレなんか変な事いったのか…?) 唯はどこか憮然とした顔でリトの前に座った 「それで……先生は?」 「なんか御門センセー呼びに行ったんだけど戻ってこなくてさ…」 「そう」とだけ返す唯。いつもの様に冷静に見えてもさっきから目が泳いでいる 勢いだけで追いかけてきたため、まだ気持ちの整理ができないでいた それでも目の前のリトを放って置くなんて事はできるはずもなく 唯は小さく溜め息を付くと、おもむろに立ち上がる 「古手川?」 黙ったまま棚を開けると、唯は中からガーゼや消毒液の入った救急箱を手に、再びリトの前に座る 「足出して」 「へ?」 「私が手当てするって言ってるの!」 リトはいまいち意味を理解できなかったのか、目をぱちぱちさせる 「早くして!」 少しムッとしている唯に、リトは慌てて言われた通りにケガをした足を見せる ガーゼに消毒液を染み込ませると、唯は小さな声で呟いた 「沁みるからね」 「う…」 少し冷や汗を浮かべるリト。そんなリトにお構いなしに唯は傷口にガーゼを当てた 擦り傷した周りのドロや汚れを落とし、傷口のバイ菌を拭いていく 「……あれ? 痛くない…」 多少の痛みはあるが、思ってた以上どころかほとんど感じない痛みにリトは驚く 「古手川うまいんだなー」 唯が傷口から顔を上げると、そこには、感心したのか驚いているリトの顔があった 「なんか意外だな」 「……それってどういう意味なの?」 少しトゲのある唯の言い方にリトの額に冷や汗が浮かぶ 「え、えっと意外って言ったらアレだけどさ…こんなにうまいだなんて思ってなかったからさ。はは…」 「……ふ~ん」 「ゴメン…」 シュンとなるリトに唯は俯くと、捻挫して少し腫れている足に湿布を張り、ハサミで包帯を切っていく 「……お兄ちゃ…兄がね…」 「え?」 「兄が小さい頃からよくケガとかして帰ってくるコトが多かったから、私がいつも手当てとかしてたのよ」 「へ~兄ちゃんいるのか?」 唯はうなずくと切り取った包帯をリトの足に巻いていく 「どんなにケガしても、いくら言っても聞かないんだもの! まったくどこかの誰かと一緒よね」 いつの間にか半眼で見つめてくる唯にリトはバツが悪そうに苦笑いを浮かべた 「…で、でもお前すごいよ」 「そんなコトないわ。だってこんな事、誰にでもできるもの」 「違うって! 手当ては誰でもできるかもしれねーけどさ、それを『いつも』はできないだろ? それって古手川のやさしさだと思うけどな」 「へ!?」 「古手川みたいにやさしいヤツなら絶対いい彼女になると思うけどな…」 頬を指で掻きながら少し赤くなっているリトに、唯は慌てて視線をそらす 「なな、何言ってるのよ!? そ、そんな事いってもなんにもないからね!」 少し身を捩る唯に何を感じ取ったのか、リトは慌てて弁明を始めた 「ご、誤解だって! オレはそんなつもりで言ったんじゃ…。 お前の話し聞いて、古手川ってすげーやさしいなって言うかえっと…」 あたふたと一人必死なリトに対し、唯はまったく視線を合わせようとしない (もぅ…どうして結城くんっていつもいきなりドキっとさせるコト言うわけ) (はぁ~、また怒らせたし……。そんなつもりじゃないんだけどなァ…) ムスッと頬を膨らませる唯と、それに溜め息を吐くリト そんな二人の会話を隠れて聞いている者がいた 「青春ね。二人とも…」 入口横の壁にもたれながらクスっと妖しく笑うと、御門はコーヒーを口にした 教室に戻ってみると、放課後だというのに数人の女子が残って雑談をしていた 「えーマジ!?」 「春菜のお姉ちゃん二人の男に告られたんだァ!!」 「しーっ、声が大きいよ二人とも」 楽しそうに声を弾ませるリサとミオに、春菜は困った様な顔をする 「で、結局どうなったワケ?」 「それが…」 ワイワイと恋愛話しに華を咲かせる三人の横で、唯は一人帰り支度をしていた 机から教科書を取り出しカバンに入れながらも、その表情はいつもと違い、落ち着かないのかそわそわしている (愛だの恋だの……どうして皆そういう話しが好きなんだか。勉学に励むのが学生のあるべき姿のはずよ…!) カバンの中身を整えると、ふとリトの机が目に入る (結城くんの…どうしよ…) しばらく迷う様に眉を寄せると、唯はリトのカバンを手に教室を出た 保健室に戻りそのドアを開けようとすると、中から明るい声が聞こえてくる 「え? …ララ…さん?」 少し開いたドアの隙間から中を確認すると、思ったとおりそこにはララがいた 「…それでね昨日、妹たちと通信で話したんだよ」 「へぇ…」 「久しぶりだったから、すっごく喜んでねー」 リトの前で身振り手振り、楽しそうにうれしそうに話すララ 声は弾み、笑顔だって全開だ 「またみんなでゲームしたいって言ってたよ♪」 「…そ、それはマジで勘弁してくれ…」 ゲーム世界に行った時の事を思い出してか苦笑いを浮かべるリトだったが、 すぐにその顔がやわらかくなるのは唯の気のせいなのか (また…私……) 胸の奥がズキズキと痛む 昨日よりも今日の方が、朝よりも夕方の方が、休み時間よりも今の方が、ずっとずっと痛い 「…………」 楽しそうな雰囲気の二人から目を背ける様に、唯は保健室を後にした 「あれ?」 「ん? どーしたのリト?」 「いや…気のせい……だよな?」 誰もいなくなった保健室のドアを見つめながらリトはそう呟いた 夕暮れの廊下を歩きながら唯は浮かない顔をしていた (私どうしちゃったのよ!?) 頭の中がぐるぐる回って止まらない そして、その中には常にリトがいて──── (……私…やっぱり結城くんの事が……) ハッと俯いていた顔を上げると、頭をぶんぶん振りながら慌てて自分の気持ちを否定してしまう (違う! 違うわ! そんな事あるわけない! 恋愛なんてハレンチなこと私が…) 肩に掛けたリトのカバンがズシリと重く感じる 「…っ…!?」 渡すどころか逃げる様にここまで来てしまった事を唯は悔やんだ 「……はぁ…とりあえず戻らないと。結城くん困ってると思うし…」 そう呟いた時、開放感のある渡り廊下の低い壁に腰かけている一人の女の子が目に留まった 「…!? こんにちは…えっと…ヤミちゃんでいいかな?」 「あなたは…」 読んでいた本からスッと顔を上げたヤミは、唯の顔を見ながら口に手を当てて少し思案顔になる 「コケ…コケ川唯?」 「古手川!!」 若干顔を引きつらせるも無理やり気を取り直すと唯はヤミに話しかけた 「あなたってホント、いつも本読んでるわね」 「地球の文学は面白いものが多いですから」 「そう…」 気のない返事を返す唯から再び視線を本に向けると、ヤミは唄でも歌うかのように本を読み上げていく 「────恋と言うのは突然始まる…」 「え? 何?」 「その時から運命の歯車は回り始める…二人の心は時計の針の如く離れては近づき────やがて重なる…」 「…ぁ……」 ヤミの言葉を聞きながら唯はリトの顔を思い浮かべていた 突然始まる恋 気がつけばいつも想っていて だけど、中々、言葉にできなくて────…… 「い…いきなり何!?」 ヤミはパタンと本を閉じると、表紙を唯に見せた 「『恋する乙女の唄』……今読んでる恋愛小説の一節です」 「恋愛小説…」 「古手川唯。あなたは恋をした事はありますか?」 「え!?」 思ってもいなったヤミの発言に唯はつい声を大きくさせてしまう 「きょ、きょきょ興味ないわよ! なんでそんな事きくの!!」 その漆黒の瞳で唯を見つめながらヤミは、淡々と告げた 「…恋愛という感情……いくら想像しても私にはわからないんです。できることなら知りたい。 何か…とても大切な感情のような気がするから…」 「…ヤミちゃん……」 声こそいつもと同じ淡々としたものだが、その顔には普段は見られない、 寂しさの様なものが浮かんでいる様に唯は感じた そして──── さっきまで校庭をオレンジ色に染めていた空は、今ではすっかり雲に覆われ、 遠くゴロゴロと不吉な音を鳴らしていた (大切な感情…か…) 保健室に戻りながら、唯はさきほどのヤミとのやり取りを思い返していた 『古手川唯。あなたは恋をした事はありますか?』 (私は…) 結局、御門は現れず、ララは見たいテレビ番組があるため帰ってしまい、保健室にはリトだけが残っていた 足の調子を確かめるため、何度も足をプラプラと伸ばしたり屈めたり 少しの痛みしか残らない唯の手当てにリトは素直に驚く 「すごいよなァ。意外って言ったらまた怒るんだろーけど…」 リトの中の唯のイメージは様々だ 真面目で勉強熱心。少し堅苦しくて融通が利きにくい いつも怒ってばかりで、いつもお説教していて なんだかあまり良いイメージを持っていない事に、リトは苦笑した だけど、何だかんだと、さっきまでひた向きに手当てをしてくれた唯 リトはガーゼの上を指でなぞっていく そこには唯のやさしさが詰まっているような気がした 「古手川ってホントはやさしいと思うんだけどなァ」 少し厳しすぎるところや、キツい態度の裏にある唯の本当の姿 リトなりにその事に少なからず気付いていた 「わざわざオレのためにここまで来てくれたんだもんな…」 息を切らせながら保健室へとやってきた唯の姿に、リトの口に笑みがこぼれる 「やっぱ古手川ってカワ…」 「私が何なの?」 いつの間にか入口に立っている唯に、リトはビクっとなる 「お、お前いつからそこにいたんだ!?」 「…ついさっき。何? 私がここにいちゃいけないの?」 「い、いや、そーゆう事じゃなくてさ…はは」 歯切れの悪いリトを無視するように中に入ってくると、唯は持っていた制服を差し出す 「へ?」 「着替え! まさかそのままの格好で帰るつもり?」 「そ、そうだよな! ありがとな古手川」 「別にいいわよこれぐらい」 唯は素っ気なく答えると、入口の方に戻っていく 「あとカバンも。なんだかすごく重いんだけど? 余計な物、持って来てるんじゃないでしょうね? 言っとくけど、マンガとか持って来てたら没収す…」 そう言いながら振り返った唯の体がカチンと固まった リトは今、上半身裸でシャツを着ようとしている最中だったのだ 「な、な、な…」 みるみる赤くなっていく唯 「え…」 「何考えてるのよ!! ハレンチなっ!!」 リトに背を向けると、唯は真っ赤になりながら逃げるように保健室を飛び出した 「よくわかんねーけど…また怒らしたんだオレ……」 リトは制服を手に一人ガックリと肩を落とした 廊下の壁にもたれながら唯は自分を落ち着かせる 「着替えるなら着替えるって言いなさいよね! もうっ!!」 胸のあたりがやけにドキドキする (結城くんの裸…) プールの時や海に行った時に見ているはずなのに あの時は感じなかった妙な高鳴りに唯は戸惑った 頭にさっき見た光景がチラついて離れない 「ハレンチだわ…私…」 着替え終わったリトが保健室を出ると、入口を出たところで唯が待っていた 「あれ? 帰ったと思ってた…」 「いたら悪いの?」 リトからふいっと顔を背ける唯は、まだ機嫌が悪いようだ (怒ってる……よなァ) 一人溜め息を吐くリトに、唯はムッとした視線を向ける 「何よ?」 「え!? いや…別に…はは」 愛想笑いをするリトに唯は視線をそらす 「それより早く帰るわよ! 下校時間過ぎちゃうじゃない!」 「え? いいって! オレ一人で帰れるから古手川先帰れよ」 リトの素っ気ない態度に唯は少し頬を膨らませる (……あれ? オレまた何か余計なこといったのか?) 唯は膨れた顔のままリトに向き直ると早口でまくし立てた 「だ、だって、あなたケガしてるじゃない! 帰り道何かあったらどうする気なの!? 私がいれば何かあった時でも大丈夫でしょ? 私は風紀委員だし、あなたの手当てしたの私だし、 最後までちゃんと責任もたなきゃダメだって思ってるのっ!!」 一息で話し終えた唯にリトはぽかんとした顔になる 「よ、要するに…オレの事が心配……ってこと?」 「ち、違うわ! 責任があるから仕方なく一緒に帰るっていってるでしょ!? 変な勘違いしないでっ」 「で、でもその気持ちがうれしいよ! ありがとな」 「!!?」 ニコっと笑うリトから唯は慌てて顔をそらした (お、おお、落ち着きなさい! ちょ…ちょっと結城くんが笑っただけじゃない…こ、こんな事で…) それ以上リトの笑顔を見ていたらどうにかなっちゃいそうなほど唯の顔は赤い そして、そんな唯の様子を不思議そうに見ていたリトは当然の様に聞いてしまう 「どしたんだ古手川? なんかあったのか? 顔赤くなってぞ」 「な…なな、何でもないわよ!!」 慌てて否定するも、胸の動悸は収まるどころかますます大きくなる 唯は最大限の理性を振り絞ると、なんとか表情をいつもの様に戻そうと気合を入れた 「と…とと、と、ところで……その…ラ、ララさんは?」 「ララ? ララなら先帰ったよ。今日はホラ、マジカルキョーコの放送日だから」 「…ふぅん」 と、何気ない返事をするも唯はハッと気付いてしまう (!! …って! 何でララさんがいなくてホッとしてるのよ!!) 顔を赤くしながら思い詰める唯。そんな唯の姿はリトから見ると怒っている様に見えるわけで──── (こ…古手川がまた怖い顔してる…オレ、何か怒らせるような事言ったっけ!?) 青い顔をしながら冷や汗を浮かべるリト どうしていいのかわからない自分の気持ちに、ついジト目になってリトを睨んでしまう唯 そんな二人をよそに空はますますどんよりと黒くなっていく ────チクタク チクタク チクタク 長い針と短い針 二つの針はチクタク チクタクと進んでいく 天気の影響からか、最低限の明かりしかない廊下はいつもよりも薄暗い いつも見慣れた風景が、今日は少し不気味に見えさえする 「……」 唯は無意識にリトへと体を寄せた 風が窓ガラスを叩く音が、真っ暗な廊下の端が 唯の心をざわつかせる (怖くない…怖くない…怖くない…) その時、一際大きな風の音にビクっと体が震えた 思わずリトの制服の裾を握りしめそうになって慌てて手を引っ込める唯 「あのさ…」 「!!?」 突然話しかけるリトに、唯は思わず声を上げそうになってしまう 「な、何?」 努めて冷静に振る舞おうとする唯の気持ちを余所に、リトはまっすぐ前だけを見ている 「今日はありがとな! すげーうれしかった」 「え…ぁ…べ、別に私はその…」 「古手川のおかげで痛みももうないし、ホント、ありがとな!」 リトから顔を背けると、ジッと下を見つめる唯 その顔はほんのりと赤くなっている (私の…おかげ…) 「これで明日の体育の授業も余裕かな」 「え? …ちょ…調子に乗らないの! それにまだ治ったワケじゃないんだからね?」 「もう大丈夫だって」 下駄箱からクツを出しながら唯はリトを睨んだ 「何言ってるの!? 足の腫れも引いてないのにバカな事いわないで」 「ま、まあ…そーなんだけどさ……はは」 むぅ~っと睨む唯にリトはたじたじになってしまう 「あ、明日も気をつけるよ」 「……ふん」 唯はリトから顔を背けると、クツを履き替えて校舎から出て行く その後を追うリト 「うわァ…なんかもう一雨来そうな感じだな」 唯は校庭に出ると、空を見上げた。空はどんよりと雲に覆われている (…雨、大丈夫よね) 今日の天気予報では雨の心配はないと言っていたのだが 「早く帰りましょ! あなたの家、少し遠いんでしょ?」 「いや、それなんだけどさ…」 「何?」 「先にお前の方、送っていくよ! いろいろ心配だしさ」 「べ、別にいいわよ! 言ったでしょ!? 責任があるって! それにこれぐらい一人で帰れるわ!」 ケガも気になるが、リトに何だか子供扱いされてる様な気がして、唯はムスっと頬を膨らませる 「そーじゃなくて! こんなに遅くなったのオレのせいだし」 「だから別に…」 「古手川女のコじゃん! だからその…何かあったらオレ…」 唯はキョトンとリトを見つめた リトは頭を掻きながらなんだか言い難そうにしている (結城くん…私の事…) うまく言えないし、頼りなさそうだし だけどそんなリトのやさしさに唯の心は揺れる 少し悩む様に眉を寄せると、くるりとリトに背を向け、唯は淡々と告げた 「…もう遅いし早く帰るわよ!」 「古手川…」 唯はもう歩きだしている 「何してるの? 私の事送ってくれるんじゃなかったの?」 リトは顔をほころばすと、急いで唯の隣に並んだ 帰り道 「…でさ、ララのヤツ言ったんだ…」 隣を歩くリトの会話を唯は浮かない顔で聞いていた (もう、結城くんさっきからララさんのコトばかりじゃない! ……一緒に住んでるから仕方ないけど ……一緒に、か……) リトはリトで、さっきから無言の唯との雰囲気を良くしようと必死に会話を続けていた が、元々女の子とあまり話したことのないリトにとって、それはとても難しいことであり──── (ダメだ…全然話しが見つからねー…) 二人は互いを思いながら、同時に溜め息を吐いた そして、しばらく会話が途切れた 「……」 「……」 「…足、大丈夫なの? 痛くない?」 「え? あ、ああ。全然平気! お前のおかげだよ」 「そう。ならいいんだけど。…あまりムチャしないでよね」 「へ?」 「そ、その…ほら、授業に支障があるし、他の先生にも迷惑になるし…」 リトは唯の横顔をチラリと見た 目は泳いでいるし、何だか頬も少し赤い いつもはハキハキと話す唯にしたらめずらしいと感じた (ひょっとして…ホントにオレのコト心配して…) 都合のいい考えかもしれないが、リトは素直にそう思ってしまう リトの心がざわざわと揺らめいた 「と、とにかく今度から気をつけて!」 「…そ、それはわかってるけどさ。ケガしたらまた古手川が看てくれる……よな?」 唯の足がピタリと止まる 「だから、保健室で今日だけ特別っていったでしょ!? ちゃんと聞いてたの?」 「聞いたけどさ、その…」 「何よ?」 「さっきも言ったけど、その…お前に看てもらってすげーうれしかったからさ」 唯の顔が薄暗い夕暮れ時でもわかるほど赤く染まる 「そ、そんなコト言われてもなんとも思わないわよ! だ、だいたい、私は仕方なく…」 「それでもうれしかったんだ! それはホントだからさ」 ハニカミながら笑うリトから唯は顔を背けた 「だからまた頼もうと思って…ダメ?」 「……そ、そんなに言うんなら、か、考えてあげてもいいわよ」 「ホントに!?」 顔をほころばせるリトに唯は鋭い視線を送る 「だからってケガしてもいいってワケじゃないんだからね! あなたがケガしたら私はうれしくないわよ…」 どんどん声のトーンが下がる唯 リトがケガをする どんな小さなケガでも唯にとってそれはすごく辛いこと 「そりゃまァ…」 そんな唯の気持ちにまったく気付かないリトは、頭を掻きながらバツが悪そうな顔をする 「と、とにかく、もうムチャな事も危険な事もしないで! それでももしケガしたら、 その時は……ちゃんと看てあげるから」 「ああ、わかった。ありがとな古手川!」 満面の笑みを浮かべるリトに唯の胸はドキンと音を立てる リトのその屈託ない笑顔に唯は弱かった (そんな顔して見ないでよね) 唯はリトから顔を背けた そんな唯の態度はリトから見れば誤解を招くものであり (オレ、古手川を怒らせてばかりだなァ…) リトはガックリと肩を落とした そしてまた無言の時間が流れる 前はこんな事なかったのに 寄れば触ればどちらも気にせず話せていた。ちゃんと自分の言葉で だけど最近は違う 相手の事を考えてしまう 相手の事を気にしながら話してしまう (何なの…これ…?) (何だよ…これ…?) お互いの気持ちに触れそうで触れられない いつまで経っても気持ちが噛み合わない二人 そんなモヤモヤした気持ちの中で会話を探していた時 唯の頬にポトっと水滴が落ちてきた 「え?」 唯は反射的に空を見上げる 空はさっきよりも薄暗くあたりはジメっと湿っている 見上げる空から次第に、ポツリ、ポツリと雨粒が落ちてきた 「雨…か?」 リトも唯と同じように空を見上げた 雨粒は次第に数を増やしていき、みるみる地面を濡らしていく 「ヤバっ!!」 「もう! 何なのいきなり…」 「古手川こっちだ!」 「え…うん!」 雨が降りしきる中、伸ばしたリトの手を唯はとっさに握った 二人は手を繋ぎながらその場から駈け出す 雨はますます勢いを増し、周囲の音をかき消していく まだ夏服のままの制服は、すぐに水を吸い込みベッタリと肌に張り付く 髪も、体もずぶ濡れになる二人 (もう! 今日はずっと晴れるんじゃなかったの!?) そう雨空に向かって愚痴りながら、唯はリトの手を握りしめたまま走った 「ふーーっ、ビックリしたァ」 と、溜め息を吐きながら腰を下ろすリト 二人は今、近くの公園にある屋根付きの遊具の中で、雨が通り過ぎるのを待っていた 「夕立みたいだからすぐやむだろ」 「そ…そうね」 どこか曖昧な返事をする唯 雨が降った事よりも、体が濡れた事よりも、リトの声よりも、ずっとずっと気になっている事で頭の中はいっぱいだった (また…手、握っちゃった…) 求められるままとっさに手を伸ばしてしまった (あの時の同じ…) 不良達から助けてくれた時と同じ感触 (結城くんの手、あったかい…) 「あ、そーだ古手川…!?」 そう言いながら唯に振り返った時、リトの思考が停止する (ちょ…制服が濡れて……!!) 雨で濡れたシャツの下から唯の下着が丸見えになっていた 前髪から滴る雨粒や、濡れた肌がより一層、唯を艶美に見せる 思わずボーっとなるリトに唯は顔をくもらせた 「何?」 「い、いや…オ、オレのハンカチ使えよ!!」 「あ…ありがと」 手に取ったハンカチはとてもあったかくてやさしくて、まるでリトの手と同じ感触がした (優しい…結城くん……) 濡れた肌にハンカチのあたたかい布の感触がやさしく触れる ハンカチを握りしめる唯の胸にヤミとの会話が蘇る ────その時から運命の歯車は回り始める 私…私は…… 二人の心は時計の針の如く離れては近づきやがて────…… 私……やっぱりこの人を… 唯の中でカチリと音がした そして、あったかくて、それでいて熱い感情が胸の中で弾けて広がっていく 唯はチラリとリトの横顔を覗き見た 好きなんだと思った 好きなんだと感じた 気が付けばいつも一緒にいて、いつも想って、そして、いつも心の中にいて ありふれた感情 だけど一番大切な感情に、唯は生まれて初めて手に触れた それはキュンと胸を締め付けたかと思うと、とろけるような甘さで胸を包んでいく (これが…好きになるって事……) 胸の鼓動はなぜか落ち着いていて、トクン、トクンと規則正しく鳴っている (結城くん…) そんな唯の心情の変化に気付くわけもなくボーっとしていたリトは、ふいに外の異変に気付くと慌てて唯に体を寄せた 「古手川!!」 「キャ!? ちょっ、ダ…ダメよ結城くんっ、い…いきなりそんな……」 「しっ静かに!!」 リトは顔を寄せると、口に指を当てながら唯の声を封じた 間近に迫るリトに唯の心拍数が跳ね上がる (そ、そんな事言われたって…こ…心の準備が…) 気持ちは迷い、心はゆらゆらと揺れ動く ドキ、ドキ、ドキ、ドキ と、胸の高鳴りは止まらない (こ、こんな事いけない事なのに……) いけないと思いながら、宙を彷徨っていた手は自然とリトの背中に回ってしまう (結城…くん……私…私────…) 想いを込めてリトの体を抱き寄せようとした時、外から聞き慣れたヤらしい声が聞こえてきた 「るん♪ るん♪ 本屋でステキな本見つけちゃったし、雨でスケスケになった制服見ちゃったし、 雨降ってよかったよかった! さァ、帰って校長室でじっくり本読みましょ」 唯はリトの胸の隙間からチラリと外の様子を窺うと、少し遠くに校長の後ろ姿と、 雨で濡れた制服を着ている彩南高の女子生徒の姿が目に映る (もしかして…) 胸の中から唯はリトの顔を覗き見る 顔を赤くしながら、それでも腕に力を込め必死に濡れた自分の体を隠してくれているリトの姿 (結城くん……私の体見られない様に守って…) リトの顔を見つめる目に熱が帯び、頬がぽぉーっと熱くなっていく (私…また…守ってもらっちゃった…) あの時と同じ、不良達から助けてくれた時、ゲームの世界で守ってくれた時の様に いつも助けてくれたり守ってくれた時は、決まってドキドキが止まらなくなってしまう 体は冷たくなっているのに、リトと触れ合っている部分だけは、とてもあったかくて気持ちいい 唯は無意識にリトへ体を寄せた 胸と胸がくっ付き、顔が間近になる 「え…っと、古手…川?」 伏せ眼気味の唯の長い睫毛を雨の滴が濡らしていき、そのまま滑る様に頬を伝うと、口元に入っていく ゴクリ────と、リトは喉を鳴らした 「結城くん…私…私は……」 熱っぽい唯の声にリトの心臓が警笛を鳴らす リトは反射的に唯の体を離してしまった 「え……」 「な、何とかやり過ごしたな」 「…あ…あの…」 「い…いや~…今の古手川の姿を校長に見られたらどうなる事かとヒヤヒヤしたぜ!!……はは…」 まるで誤魔化す様に愛想笑いを浮かべるリトに、唯はキョトンとした顔を向ける 「結城…くん?」 じっと見つめるその視線はリトに何かを求める様な、リトの心の中に触れる様なそんな感触がした リトはとっさに思ってもいない言葉を口に出してしまう 「え…えっと……そ、その、変な勘違いつーか…ホ、ホラ、古手川ってクラスメイトだろ? だからその…」 クラスメイトという響きに唯の胸の奥の何かがズキリと軋んだ 「そ、それにオレ達ってと、友達だしさ……ま、まったく校長も人騒がせだよなー!」 「そ…それじゃあ…私の事守ってくれたのって……」 唯はただ、茫然とした表情でリトを見つめていた 「あ、あれ……えっと、古手川?」 「………わ…私が…クラスメイトだから? 友達だから? だからなの?」 「え……っと…まあ…う、うん」 ぷるぷると小刻みに震える手をギュッと握りしめると、その想い表わすかの様に唯はキッとリトを睨みつけた 目に涙をいっぱいためて 「こ…古手川?」 「バカッ!!!」 唯は一声そう怒鳴ると、そのままの勢いで遊具の中から飛び出してしまった
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16172.html
何かの技の名前みたいだが、当然ながらそんな事は無い。 敬語を使うのも忘れて、梓がそんな我を忘れた声を上げるのも当然だ。 それもそのはず。 ムギの指差した先には、半径五十㎝近い大きな穴が掘られていた。 勿論、この穴は私が掘った物でも、唯や澪が掘った物でもなかった。 梓もそれくらいは分かってるんだろう。 軽い化物でも見るような視線をおずおずとムギに向ける。 梓に視線を向けられたムギは、困ったような微笑みを浮かべながら、恥ずかしそうに続けた。 「私、皆でタイムカプセルを埋めるのが夢だったの……。 タイムカプセルを埋めるのなんて初めてだから、 嬉しくて、張り切り過ぎちゃって……、つい穴を深く掘り過ぎちゃったの……」 「そ……、そうなんですか……。 すみません、ムギ先輩……。 何だか私、出しゃばった真似をしちゃったみたいで……」 「ううん。私の方こそ、梓ちゃんの申し出を無駄にしてごめんね……」 「い……、いいえ、謝らないで下さい、ムギ先輩。 あの……、えっと……、お疲れ様でした……」 その言葉の後、梓とムギの言葉は止まった。 無理も無い。 傍から見てた私達ですらびっくりしてるんだ。 事態を全く知らなかった梓の驚きは、私達よりも遥かに大きいはずだ。 何しろさわちゃんに差し入れを持って行った梓と別れてから、合流するまで二十分も経ってないんだ。 まさかその間にこんなに深い穴をムギが一人で掘るなんて、梓も夢にも思わなかっただろうな。 いつもあれだけ重いキーボードを平然と持ち運んでるんだ。 ムギが力持ちだって事はよく知ってたけど、まさかここまでとは思ってなかった。 「穴は私が掘りたい」というムギに、体育館倉庫で見つけたスコップを手渡して約七分。 たったそれだけの時間で半径五十㎝近い穴を掘るなんて、驚異的と言わずに何て言えばいいんだろう。 かなり固いはずの地面をプリンみたいに掘ってくんだもんなあ……。 ムギは絶対怒らせないようにしよう……。 そんな事を考えた、ムギと出会って三年目の冬。 少しだけの沈黙。 私も澪も梓もムギも、何を言うべきなのか迷ってしまってる。 放課後ティータイムの仲間達は言葉を失う。 約一名を除いて。 「穴掘るの、ムギちゃん一人に任せてごめんね。 でも、ありがとう。これでタイムカプセルを埋められるよ!」 その約一名とは言うまでもなく唯だった。 何事にもって程じゃないけど、ほとんどの事には動じない性格の唯が何だか羨ましくなる。 唯の言葉に心が落ち着いたようで、ムギが軽い微笑みを浮かべた。 「ううん、気にしないで、唯ちゃん。 穴を掘るのは、私がやりたくてやった事だもん。 私の方こそありがとう、唯ちゃん。 タイムカプセルを埋めるって夢を叶えさせてくれて」 「いえいえ、こちらこそー」 ムギのまっすぐな言葉に、唯が照れ笑いを浮かべる。 いつもなら突っ込みを入れてたところだけど、今回は別にいいかと思った。 唯のやる事はいつも突然で、いつも無茶苦茶で、 でも、それがいつも面白くて、いつも楽しくて、いつも嬉しい。 多分笑顔になりながら、私は腕を上げて宣言する。 「よっしゃ。 穴はムギが掘ってくれた事だし、タイムカプセルを埋める事にしようぜ。 と言うか、まずはタイムカプセルに入れる物の選別から始めなきゃいけないんだけどな。 梓の鞄の中に入ってる物全部を入れるのは無理だもんな」 目配せをしてみると、流石に鞄の大きさを自覚している梓が小さく縮こまった。 梓も変な所で一生懸命になるよなあ……。 でも、タイムカプセルに心を躍らせてるのは、私も同じだった。 やってる事が小学生レベルではあるけど、子供の頃に戻れたみたいで何か楽しい。 気が付けば、梓の置いていた鞄をムギが軽々と持って来ていた。 そのままムギが鞄を開き、私も鞄の中身を覗き込んでみる。 「色々持って来たよなあ……」 思わず呟いてしまっていた。 梓の鞄の中には部室に置いていた私達の写真や、 余ってたピックや五線譜、学祭でさわちゃんが用意してくれたHTTのTシャツなんかが入っていた。 あの短い間で、よく掻き集めて来たもんだ。 「おっ、これは……」 面白い物を見つけた私は、呟きながら鞄の中からそれを取り出してみる。 中身の入ったCDケース……、我が軽音部思い出のディスクとはつまり……。 「うわあっ!」 妙な声が上がったかと思うと、 そのCDケースがいきなり私の手からひったくられた。 ひったくったのは、勿論澪だ。 横目に様子をうかがってみると、 澪は顔を真っ赤にしてそのCDケースを胸の中に抱いていた。 私は若干呆れて、澪の肩を叩いて軽く声を掛けてみる。 「おいおい……。そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃんか……」 「やだ! タイムカプセルでも、これを残すのだけは絶対に嫌!」 「将来的には、きっと笑える一品になってるって」 「やだやだ! 本気で嫌だからね!」 「み……」 「いーやーだーっ!」 取り付く島も無かった。 まだこんなに心の傷が残っていたのか……。 まあ、一度封印が解かれたとは言え、再封印されたブツだ。 澪にとっては、本気で誰の目にも触れさせたくない代物なんだろう。 そう。そのCDケースの中のディスクの正体は、 梓が入部するより前に制作した新入生歓迎ビデオだった。 何故か澪にナースのコスプレをさせて撮影されたいわくつきの一品だ。 そういや、本当にあれ何でナース服だったんだろう……。 当時、さわちゃんの中でブームでも来てたんだろうか。 どうでもいいけど。 「澪ちゃん、落ち着いて」 心配そうにムギが澪の肩に手を置く。 泣きそうな顔で、澪がムギの方向に振り返って言った。 「こんなの残したくないよ、ムギ……。 梓もどうしてこんなの持って来たんだよ……。 こんなのずっと封印しててよかったじゃないか……」 澪が責めるような視線を梓に向ける。 梓も澪に責められる事は分かってたみたいで、 申し訳なさそうな顔を浮かべながら、大きく頭を下げた。 「すみません、澪先輩。 でも、私、軽音部の思い出はできる限り残しておきたくて……。 特にそのディスクは私達の数少ない映像ですから、絶対に残しておきたいんです」 「梓の言う事も分かるけど、だからって……」 「心配しないで下さい、澪先輩。 澪先輩だけに恥ずかしい思いはさせません。私も封印を解きます」 言って、梓がポケットの中から、また中身の入ったCDケースを取り出した。 澪が胸の中に抱くCDケースと同じく封印されしもう一枚……。 「あ、それちょっと前に作ったビデオ?」 唯が嬉しそうにそのCDケースを指差すと、真剣な表情で梓が頷いた。 私も胸の前で腕を組んで、梓に向けて神妙な声色で呟いてみる。 「軽音部にようこそにゃん……のやつだな」 「今はそこには触れないで下さい、律先輩」 「はい、すみません、梓後輩」 悪い事は言ってなかったはずだが、怒られてしまった。 釈然とはしないが、今は黙っておく事にしよう。 梓は視線を澪の方に戻すと、静かな声色で続けた。 「澪先輩がそのディスクを残すのが恥ずかしいなら、 私も私の恥ずかしいディスクを残します。恥ずかしいけど、残したいんです。 私達が軽音部で活動した記録ですから、 未来の私達じゃなくても、誰かに観てもらいたいって思うんです。 これは私の我儘ですから心苦しいんですけど、 でも、どうかそのディスクをタイムカプセルに入れさせてもらえませんか?」 真剣な表情と、真摯な態度だった。 一度大切な物を失くしてしまった梓なんだ。 残された思い出の品を大切にしたいという気持ちが、誰よりも強いんだろう。 私は軽く微笑み、ムギの隣で澪の肩に手を置いた。 「観念するしかないな、澪。 後輩がここまで言ってくれてるんだ。 願いを聞き届けてやらなきゃ、女が廃るってもんだ」 「それは……、私もそうしてあげたいけど、でも……」 「分かったよ、澪。 おまえの気持ちも分かる。 それじゃ、梓には悪いけど、その代わりに一年の頃の学祭のビデオを……」 「わーっ! 分かったよ! もう我儘言わないよ! 一年の学祭のビデオ入れるくらいなら、こっちのディスクを入れてくれよ!」 澪が真っ赤になりながら、胸に抱いてたディスクを私に手渡す。 勝った……! 脅したみたいで居心地が悪いけど、 澪に早く決心させるためにはこれが一番いい方法のはずだった。 澪としても梓の願いを叶えてやりたかったんだろうけど、 一度嫌がった手前、自分から引き下がりにくかったみたいだしな。 梓が申し訳なさそうに私と澪の顔を交互に見てたけど、 気にするなって意味も込めて、軽く梓にそのディスクを手渡してやった。 梓の言ってる事は確かに我儘ではあるけど、間違ってないんだ。 こういうのは、後輩が言っていい我儘なんだと私は思う。 私は軽音部で後輩になった事が無いから、 模範的な先輩ってやつが分からないけど、 私自身はそういう後輩の我儘を笑顔で聞き届けてやれる先輩でいたい。 「そういえば……」 ムギに支えられて立ち上がりながら、澪が不意に小さく呟く。 「さっき唯はこのタイムカプセルを、 未来の人達へのプレゼントって言ってたよな? どういう事なんだ?」 それは私も気になってる事だった。 タイムカプセルってのは、当たり前だけど未来の自分達に残すための物だ。 百歩譲って自分達じゃない未来の誰かに残すのはいいとしても、 その人達へのプレゼントってのがよく分からない。 澪に合わせて私も首を傾げると、唯が急に真剣な表情を浮かべて言った。 相も変わらず、馬鹿みたいな速度で雲が流れる空を見上げながら。 「うん、実はね……。 ほら、明日がおしまいの日だよね? 世界から皆が消えて居なくなっちゃう日なんだよね? 私も、りっちゃんも、澪ちゃんも、ムギちゃんも、あずにゃんも、 憂も、和ちゃんも、純ちゃんも、さわちゃんも、皆……、皆……。 って事は、タイムカプセルを残しても、もう私達にこのタイムカプセルは開けないよね……。 誰も開けられなくなっちゃうよね……。 それってすっごく悲しくて寂しい事だよね……? でも、私、思ったんだ。 世界から皆が居なくなって、生き物全部居なくなっちゃって、 しばらくこの世界から生き物が居なくなっちゃっても……。 いつかは新しい生き物が生まれて来るはずだよね? 理科の授業でやったけど、この地球も最初は生き物が一種類も居なかったんだよね? それでも、よく分かんないけど、生き物は何処かから生まれて、 私達みたいにお茶を飲んだり、音楽を演奏できるくらいに進化したんでしょ? だったら……、だったらね? きっといつかは私達みたいにタイムカプセルを残そうって思う、 今の人間みたいな生き物も生まれてくるって思うんだよね。 だから、このタイムカプセルは、そんな人達へのプレゼント。 ずっと昔、こんな人達が居たんだって、想像して楽しんでもらうためのプレゼントなんだ。 ……勿論、私達のタイムカプセルを、 未来の私達じゃなくても、誰かに受け取ってもらいたいって気持ちもあるけどね」 皆、静かに唯の言葉を聞いていた。 唯がそこまで未来について考えてたとは思ってなかったんだ。勿論、私も含めて。 少し強い風に吹かれるその唯の表情は、とても力強く、頼もしく見えた。 「すげーな、唯……」 私が感心して言うと、唯が頭を掻きながら表情を崩した。 「いやー……、 実は今言った事のほとんどが、オカルト研の子達からの受け売りだけどねー」 「私の言ったすげーを返せ!!」 一瞬にして全身から力が抜ける。 澪達も困った感じで苦笑してるみたいだ。 唯も黙っときゃいい話で終われたのに……。 まあ、そういう事を黙ってられないのが、唯って奴なんだけど。 でも、言われてみると、 確かにさっきの唯の言葉はオカルト研の子達が言いそうだった。 世界の終わりの後に生まれる新しい人類なんて、いかにもオカルト的だ。 別に悪いわけじゃない。 そう考えると楽しくなってくるし、 それを真面目に考えてタイムカプセルを残そうと思い付いたのは、確実に唯の発想だろうしな。 「でも、そうだな……」 私は空を見上げながら誰にでもなく、自分に向けて呟いてみる。 「未来の私達じゃなくても、 未来に生きてる誰かがこのタイムカプセルを受け取ってくれたら、嬉しいよな……。 私達が生きた証拠が残るって事だもんな……」 「人は……、二回死ぬ……か」 答えを期待したわけじゃなかったけど、私の呟きに続く言葉があった。 その言葉は澪が呟いたものだった。 澪に視線を向けて、私は小さく訊ねる。 「何だ、それ?」 「いや、唯の話を聞いてて、何となく思い出したんだよ。 聞いた事ないか、律? 人は二回死を迎える。 一回目は肉体的に死を迎えた時。 二回目は誰からも忘れ去られた時……って、よく聞く言葉だよ。 もしもだけどさ……。 もしも本当に新しい人類が生まれて、 このタイムカプセルを見つけてくれたら、その人達は確実に私達の事を考えるよな? 私達の事を考えて、心の中に残してくれるはずだよ。 だったら……、それはつまり……」 「私達の二回目の死は無くなる……って事か? 私達の事を考えてくれる人が居る……か。 肉体的に死ぬ事には違いないけど……、ちょっと嬉しいな」 唯がそこまで考えていたのかは分からない。 未来の人に残す物=タイムカプセルって単純に連想しただけかもしれない。 勿論、それでもよかった。 その単純さが唯の強さで、 そんな唯が私達の仲間でいてくれる事が私達の幸せだったんだと思う。 「素敵な考えだね」 嬉しそうな感じで、微笑みながらムギが言う。 ムギも何度も世界の終わりの事を考えて泣いたと言っていた。 まだ心の中にしこりは残っているんだろうけど、 ムギは世界の終わりを前にして歩みを止めてしまうより、 私達との最後のライブを目指す事を選んでくれた。 泣く事をやめ、取り戻せたそのムギの笑顔は眩しい。 「でも、大丈夫かな……?」 不意にムギの笑顔が曇る。 でも、それは世界の終わりに悲しみを感じてるからじゃなかった。 もしかしたら唯よりも天然かもしれない、 ムギらしい心配をしただけだって事はそのすぐ後のムギの言葉で分かった。 「ここにタイムカプセルが埋まってるって、未来の人達は気付いてくれるかな? 何か目印みたいな物があった方がいいんじゃないのかな?」 私はそんなムギの天然な心配を苦笑しながら、ムギの肩を軽く叩いた。 天然ではあるけど、もっともな心配ではあるよな。 「そういやそうだよな、ムギ。 世界の終わりの後にどれくらい残るかは分かんないけど、 せめて目印になる物くらいは置いておいた方がいいかもな。 できるだけ頑丈で、ちょっとやそっとじゃ壊れそうにない目印がいいよな。 何かちょうどいい物あったっけか?」 「ふっふっふ……」 私が呟くと、いきなり唯が不敵に笑い始めた。 腰に手を当てて、完全に悪役の笑い方だ。 「何だよ、唯。 気持ちわりーな……」 「気持ち悪いとは失礼な。 でも、許してしんぜよう、りっちゃん隊員。 何故ならば、ふっふっふ……。 目印になりそうな物は既に私が用意しているからなのです! ふっふっふ……。ふっふっふ……」 「ふっふっふ……はもういい。しつこい」 「えー……。 カッコいい笑い方なのにー……」 「おまえにはそれがカッコいいのかよ。 それはそれで別にいいけど、目印って何なんだよ? 何を用意してるんだ?」 私が訊ねると、いきなり唯が申し訳なさそうな顔になって、ムギを手招いた。 自分を指で指しながら、ムギが首を傾げる。 「え? 私?」 「ごめんね、ムギちゃん。 その目印、結構重いから、運ぶの手伝ってくれる? 皆をびっくりさせようと思って、ちょっと遠い所に置いてるんだ」 「そうなんだ。分かったわ、唯ちゃん。 じゃあ、りっちゃん、澪ちゃん、梓ちゃん。 唯ちゃんと一緒にちょっと行ってくるね」 「大丈夫か、ムギ? 私も手伝おうか?」 澪が心配そうに申し出たけど、軽く笑顔を浮かべてムギが首を横に振った。 まあ、結構重いって言っても、唯基準での結構な重さなんだろう。 唯がムギ一人だけを指名した事から考えても、二人で十分持ち運べる目印に違いない。 ムギもそれを分かっているからこそ、澪の申し出を断ったんだろうな。 唯とムギが二人で駆け出していく。 44
https://w.atwiki.jp/oldtokei/pages/5.html
メニュー トップページ メニュー カスタマイズ レビュー 更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16166.html
「おーっ……」 唯は興奮した声を上げながら適当な眼鏡ケースを手に持つと、 即座にケースの中から眼鏡を取り出して、赤いアンダーリムの眼鏡を装着した。 装着した……って言い方も変だけど、 唯の眼鏡の掛け方は、掛けたって言うより、装着したって言い方の方が絶対に正しいと思う。 蔓も持たず掌を広げてレンズごと掌を顔に密着させるとか、装着以外の何物でもないだろ……。 と言うか、その掛け方だと絶対にレンズが指紋で汚れるし……。 「何だよ、その掛け方は……」 若干呆れながら突っ込んでやると、 流石に自分でも変な掛け方だって事は分かってみたいで、唯が軽く舌を出して笑った。 「でへへ。皆でお揃いで眼鏡を掛けられると思うと嬉しくってつい……」 「ま、いいけどな。それさわちゃんの眼鏡だしさ」 「ちょっと、唯ちゃん、りっちゃん。 その眼鏡、まだ新品同然なんだから、あんまり粗末に扱わないでよー」 疲れた様子のさわちゃんが、弁当を食べながら軽く唯に注意する。 服を少し着崩してるし、私が言うのも何だけど、 あぐらを組んでだらけてるそのさわちゃんの姿は非常にだらしない。 それに加えて、担任モードの口調から言葉が崩れて来てる。 まあ、和と高橋さんに自分の本性が知られてるのは分かってるみたいだし、 残る宮本さん一人相手に猫を被ってても仕方が無いって思ったんだろう。 疲れたから、猫を被ってる余裕が無いってのもあるんだろうしな。 ちょっと視線をやると、宮本さんが驚いた表情でさわちゃんを見つめていた。 私は苦笑しながら立ち上がり、宮本さんに近寄って耳元で訊ねてみる。 「驚いた?」 私の方を向いて、宮本さんが小さく頷く。 実を言うと、うちのクラスの大体はさわちゃんの本性を何となくは知っているみたいだ。 上手く演じてはいるけど、意外と粗があるもんなあ、さわちゃんの猫被り。 ただ、知ってはいても、 さわちゃんの本性を直接目にした事があるクラスメイトは少ないようで、 宮本さんもさわちゃんの素の姿を目にするのは初めてみたいだった。 特に宮本さんは気弱な印象があるから、 初めて見るさわちゃんの本性に怯えたりしてるんじゃないだろうか。 宮本さんのためにも、さわちゃんの名誉のためにも、私は少しだけフォローする事にした。 「大丈夫だよ、宮本さん。 今のさわちゃんの姿は、その……色々と変ではあるけど……、 でも、生徒思いである事は間違いない……はずだし、 宮本さんに気を許してるからこそ、あんな姿を見せてるんだと思うよ?」 私の言葉に安心してくれたのか、宮本さんは軽く表情を緩める。 何だか少しだけ笑ってるようにも見える。 ちょっと分かりづらいけど、これが宮本さんの笑顔なのかもしれない。 その表情のまま、宮本さんはさわちゃんの姿を見ながら呟いた。 「ありがとう、田井中さん。 うん……、私……、大丈夫だよ? 山中先生のこんな姿を見るのは初めてだし、ちょっと驚いちゃったけど……。 でも……、何だかすごく面白いと思うから」 おお、意外とタフだ。 強がりかとも少し思ったけど、 宮本さんの表情から考えると、その言葉は本音なんだろうな。 宮本さんの言葉じゃないけど、その宮本さんの様子は私としても面白かった。 本好きで気が弱そうなクラスメイトってだけの印象だったけど、実はそういうわけでもなかったらしい。 クラスメイトの意外な一面を見られて、気が付けば私は笑っていた。 何だか、とても嬉しい。 もうほとんど宮本さんと関われる時間は無いだろうけど、 その短い時間でもっと宮本さんと仲良くなれたらいいな、って私は思った。 「ねえねえ、アキヨちゃん」 眼鏡を強調するポーズを取りながら、 唯が軽く宮本さんの顔を覗き込んで声を掛ける。 宮本さんとそんなに関わりがあるわけじゃないだろうに、 いきなり名前で呼んでる上に途轍もなく馴れ馴れしい奴だ。 でも、それが唯って奴なんだし、私はそんな唯が嫌いじゃない。 いいや、大好き……なのかな。多分だけど。 宮本さんもそんな唯が嫌じゃないらしく、穏やかな表情で首を傾げた。 「どうしたの、平沢さん?」 「唯でいいよ、アキヨちゃん。 私ももうアキヨちゃんの事、アキヨちゃんって呼んでるし」 「えっと……、あの……」 唯はともかく、宮本さんは人をいきなり名前で呼ぶ事には慣れてないんだろう。 戸惑ってる様子で、宮本さんが少し顔を赤く染める。 ちょっと残念だけど、私は苦笑しながら唯を諌める。 「おいおい、遠慮しろよ、唯。 宮本さん困ってるだろ?」 「えー……。 私、変な事言ってるかなあ……」 「変じゃないけど、そういう呼び方になるには時間が掛かる人も居るんだって。 ごめんね、宮本さん。 唯も悪気があって言ってるわけじゃないんだよ」 私が軽く頭を下げると、困ったように宮本さんが首を振った。 ただ、困ってるのは唯の遠慮の無い行動じゃなくて、私が頭を下げた事らしかった。 「ううん、ごめんね、二人とも……。 田井中さんも頭なんて下げないで。 ごめんなさい。 私、そういうの慣れてなくって……。 でも……、ねえ、平沢さん……、 ううん、唯ちゃんって呼んでいいんなら、私……、唯ちゃんって呼んでいいかな?」 「うん、勿論だよ、アキヨちゃん! アキヨちゃんが唯って呼んでくれて、私すっごく嬉しいな!」 「ありがとう、唯ちゃん……」 宮本さんが言うと唯が満面の笑顔を浮かべ、 それに釣られるようにして、ぎこちないながら宮本さんも嬉しそうに頬を緩めた。 これまでクラスメイトって接点しかなかったのに、一瞬にしてもう仲の良い友達って感じだ。 まったく……。 唯は本当に誰とでもすぐに仲良くなれるんだな……。 ライブハウスに出た時も、ナマハ・ゲやデスバンバンジーの皆とすぐ仲良くなってたしな。 考えながら、不意に気付く。 そういえば、唯は私と最短記録で親友になれた奴じゃないだろうか。 出会った時期こそ違うけど、澪よりも遥かに短い時間で、唯は私と親友になっていた。 天真爛漫で、楽しくて面白くて、誰にでも優しい唯。 皆、そんな唯の笑顔に助けられてるんだろう。 勿論、私も含めて。 ただ、それだけにうちが女子高でよかったって思わなくもない。 これが共学だったら、多分、唯の奴、男子を勘違いさせまくりだぞ。 うちが共学だったとしても澪のファンクラブは設立されるかもしれないけど、 高嶺の花みたいな雰囲気になっちゃって、澪に声を掛ける男子はほとんどいないだろう。 その点、唯は親しみやすくて誰にでも優しいから、そりゃもうとんでもない事になるな。 しかも、唯の事だから、告白して来た男子全員と付き合ったりなんかして……。 恐るべし、唯。 流石にそれは無いと思いたいが、唯の場合は洒落にならんな……。 「そうそう、アキヨちゃん」 私の心配なんて想像もしてないんだろう無邪気な笑顔で、唯が続ける。 「私だけじゃなくて、りっちゃんの事もりっちゃんでいいよ。 りっちゃんもアキヨちゃんの事、名前で呼ぶから」 「おいおい……。 私の意思を無視して話を進めるなよ……」 「駄目なの、りっちゃん? ねえ、知ってる? 名前で呼ぶとね、すぐに皆と仲良くなれるんだよ?」 それが簡単にできるのはおまえだけだよ。 そう言いたくもあったけど、私はそれを言葉にするのをやめた。 きっとそれは唯に伝えなくてもいい事だから。 唯はそのまま自分を特別と思わずに、ありのままの唯でいてほしい。 苦笑して、宮本さんと視線を合わせる。 宮本さんは照れながら、少し嬉しそうにしながら、小さく言った。 「……じゃあ、りっちゃん……って呼ぶね? いいかな……?」 「了解だ。これからもよろしくな、アキヨ」 そうして、私と宮本さん……アキヨは軽く握手を交わした。 残り少ない時間でも、人間関係は変えていける。 当たり前の事だけど、唯は無意識にそれを私達に教えてくれたみたいだった。 「そういえば、唯ちゃん……?」 宮本さんが遠慮がちに訊ねる。 名前で呼び合う仲になったと言っても、距離が完全に縮まったわけじゃない。 でも、だからこそ、これからも縮めていきたくなるんだよな。 「何、アキヨちゃん?」 「さっき私に話し掛けて来てくれたけど……、どうかしたの? 私に何か訊きたい事があったの?」 アキヨに言われ、何かを思い出したって表情で唯は自分の手を叩いた。 それから、さっきと同じように、眼鏡を強調したポーズを取る。 「そうそう。そうなんだよ、アキヨちゃん。 眼鏡のスペシャリストのアキヨちゃんに、私に眼鏡が似合ってるか訊きたかったんだ。 どうかな? 頭がよく見える?」 眼鏡のスペシャリストって何だよ……。 それを私が突っ込むより先に、アキヨが軽く微笑みながら言う。 「うん。よく似合ってると思うよ」 何のお世辞も無いまっすぐな口調だった。 アキヨの言うとおり、確かによく似合ってる。 頭がよく見えるかどうかはさておき、ファッションとしては完璧だ。 「そうだよ、お姉ちゃん! 眼鏡を掛けたお姉ちゃんも、すっごく素敵だよ!」 アキヨの言葉に力強く続いたのは、勿論憂ちゃんだ。 何だか頬を赤く染めてる様にも見える。 滅多に見ない姉の眼鏡姿を新鮮に思ってるんだろうな。 唯のくせに目立っちゃって、ちょっと悔しい。 「ありがと、憂。 憂も眼鏡、すっごく似合ってるよ」 唯が言い、眼鏡を掛けた姉妹が顔を合わせて笑う。 気が付けば、いつの間にか私以外の皆も眼鏡を掛けていた。 その横で、さわちゃんが皆の眼鏡姿を嬉しそうに見つめている。 ……さわちゃんは置いといて。 出遅れた形になってしまった私も、袋の中から眼鏡ケースを取り出した。 一人だけ掛けてないのは、空気的にも悪いしな。 そのまま眼鏡を掛けようとして……、私の手が止まる。 何故だろう。 すごく嫌な予感がする。 こういう時って、大体が最後に掛けた奴がオチ担当になったりしないか? 皆が似合うってお互いを褒め合ってる中、 最後に勿体ぶったナルシスト的なキャラが登場した瞬間、 皆に「似合わねー!」と笑われたりするそんなシーン……。 漫画でよく使われる黄金パターンじゃないかよ……。 掛けたくねー……。 眼鏡を掛ける事自体はいいんだけど、からかわれたくねー……。 でも、この空気の中で、一人だけ眼鏡を掛けないわけにもいかなかった。 何となく視線を戻すと、唯と憂ちゃん、 アキヨが悪意の無い表情で私が眼鏡を掛けるのを待っていた。 この三人の事だ。本当に悪気無く、私が眼鏡を掛けるのを待ってるんだろう。 仕方が無い。 私の心は決まった。 笑いたければ笑えばいい。 皆の笑顔のために、この田井中律、あえてピエロになってやろうじゃないか。 蔓を手に持ち、鼻先に眼鏡を乗せる。 立ち上がって、「どうよ」と言わんばかりに親指で自分の顔を指してやる。 さあ、御照覧あれ。 これがりっちゃんの眼鏡姿だ! すぐに音楽室が笑い声で包まれるかと思ってたけど、そうはならなかった。 しばらく音楽室を沈黙が支配する。 突然立ち上がった私を、黙り込んだ皆が静かに見守っていた。 くっ……、何だよ……。 放置プレイって手法かよ……。 そんなに私の眼鏡姿を笑いたいのかよ……。 分かってるよ、似合わないのは分かってんだよ……。 もう耐えられない。 私は愚痴る様に皆から視線を逸らしながら呟く。 「いいよ。笑いたきゃ笑ってくれ。 自分でも分かってるよ。 私に眼鏡なんておかしーし……」 情けない。自分で言ってて情けない……。 でも、容姿に関してだけは、私だって自信が無いんだよ……。 だけど、その私の情けない愚痴には、意外な所から意外な返答があった。 「いや、似合ってるよ、律……」 言ったのは澪だった。 澪の事だ。私を慰めるために気休めの言葉を言ってくれたんだろう。 まったく、優しい幼馴染みだよ。 「やめてくれよ、澪……。 こんなのおかしーって自分でも分かってんだからさ……」 「いやいや、普通に似合ってるんだよ、律」 驚いて私が皆に視線をやると、誰もが真顔のままで頷いていた。 笑いを堪えてるわけじゃなく、気休めの表情をしてるわけじゃなく、 ただ感心した様子で私の顔を見ていた。 「意外よね。律にこんなに眼鏡が似合うなんて」 「真面目な委員長に見えるよ、りっちゃん」 「うんうん、漫画に出てくるおでこ委員長って感じだよ」 「あ、確かにそうですね、唯先輩。 何処かで見た事がある気がしてたんですけど、 言われてみれば確かによく見る委員長キャラです」 「りっちゃんには眼鏡が似合いそうだと思ってた私の目に狂いは無かったわね」 「自信持ってください、律さん」 皆が口々に私を褒めて(?)くれる。 ……意外に好評だったとは。 よく見る委員長キャラって評判は喜んでいいのかどうか分からないけど、 からかわれて笑われたりするよりはよっぽどマシだった。 でも、そうなると、愚痴ってた自分の事が途端に恥ずかしくなってくる。 勝手に被害妄想抱いちゃって本当に恥ずかしいし、皆に申し訳ない。 私は素直に皆に頭を下げる。 「ごめん、皆。 眼鏡掛ける事なんて滅多に無いから、 皆にからかわれるんじゃないかって思っちゃってさ……。 変な事言い出しちゃってごめんな……」 「律先輩ってば、変な所で繊細ですよね。 自信を持って下さいよ。 意外とですけど、似合ってるんですから」 「意外と、ってのは余計だけど、ありがとな、梓。 梓も眼鏡似合って……」 言い掛けて、思わず言葉が止まる。 何だろう。この何とも言えない違和感は。 梓の言葉に嘘は無いし、皆の言葉や態度にも嘘は無い。 でも、皆、私じゃなくて、違う誰かに対して違和感を抱いてる雰囲気がある。 勿論、私も皆と同じ深い違和感を抱いてる。 その違和感の正体はすぐに分かった。 分かった……んだけど、それを言葉にするのは躊躇った。 だって、その違和感の正体は私を気遣ってくれた梓本人だったんだから。 正確に言えば、眼鏡を掛けた梓の姿が違和感に満ちていたんだ。 梓に眼鏡は似合ってる。 小さな後輩の眼鏡姿は本当に可愛らしい。 のだが。 黒髪のツインテールと眼鏡という組み合わせが違和感バリバリだった。 何て言えばいいんだろう。 言葉は悪いけど、すげーインチキ臭いんだよな……。 前にテレビでメイド喫茶を見た事があるんだけど、 そのメイド喫茶の中に眼鏡でツインテールのメイドを見つけた時にもそう感じた。 可愛い要素を無理矢理二つ組み合わせた違和感って言うのかな。 可愛い事は間違いないのに、とにかくすごく無理矢理でインチキっぽいんだ。 特に襟足ならともかく、梓の場合、 頭の上の方で結んでるツインテールだから、インチキ臭さは更に倍を超える。 「どうしたんですか、律先輩?」 急に言葉を止めた私を不審に思ったのか、梓が首を傾げながら訊ねてくる。 その様子を見る限り、梓は自分のインチキ臭さに気付いてないんだろう。 ど……、どうしよう……。 38
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16167.html
私は救いを求めて周囲の皆を見渡してみる。 誰か……、誰かこの状況を打開できる奴は居ないのか……? そうだ。 どんな服装でも自在にコーディネートするさわちゃんならどうだろう? さわちゃんなら、この梓のインチキ臭さを緩和する融和策を考え……、いや、駄目だ。 「このインチキ臭さがいいんじゃない」とか言いながら、 猫耳やメイド服やリボンやフリルなんかを更に付加させて、 何処を目指してるのか分からない、痛々しくて新しい梓を誕生させちゃいそうな気がする。 そう考えながら、私は疑念に満ちた目でさわちゃんに視線を移してみる。 やっぱりと言うべきか、さわちゃんはインチキ臭い梓をうっとりした目で見ていた。 この人……、本気で眼鏡梓をコーディネートする気だ……! こうなると、やっぱり私が梓の眼鏡姿のインチキ臭さを直接伝えるしかないのか。 それが優しさなんだろうし、場の空気を和ませるのが部長の役割ってやつだ。 軽い感じに言えば、少しは頬を膨らませるだろうけど、 梓も私の言葉を素直に受け止めてくれるはずだ。 さあ、梓に伝えよう。 眼鏡姿を恥ずかしがってた私が言うのも何だけど、 ツインテールの髪型をした梓の眼鏡姿は途轍もなくインチキ臭いんだって。 深呼吸をしてから、私はゆっくりと皆の顔を見回す。 唯と澪が梓の眼鏡姿に私がどんな反応をするのか、期待を込めた表情で私を見ている。 憂ちゃん、和、高橋さん、アキヨもじっと私の言葉を待ってるみたいだ。 梓を含めた十人……、眼鏡の奥の二十の瞳が私を見つめていた。 十人……? 一人多くないか? 確か音楽室で弁当を食べていたのは、私を含めて十人だったはずだ。 何と……! 十一人いる…だと…!? 少し動揺して、私はもう一度皆の顔を見回してみる。 えっと……、音楽室に居るのは……、 私、唯、憂ちゃん、ムギ、澪、さわちゃん、いちご、梓、アキヨ、高橋さん、和だろ……。 ん? もう一度、落ち着いて数えてみよう。 私、唯、憂ちゃん、ムギ、澪、さわちゃん、いち… 「おまえか、若王子いちごーっ!」 気が付けば、つい叫んでしまっていた。 私があんまり突然に叫んじゃったもんだから、 アキヨと澪が驚いて身体を硬直させてたけど、驚いたのは私だって同じだった。 唐突な上に馴染み過ぎだろ、いちご……。 勿論、その驚きは唯達も同じだったみたいだ。 いつの間にか眼鏡を掛けて弁当を食べているいちごの姿を見つけると、 私と同じくいちごの姿に気付いてなかった何人かが驚きの声を上げ、澪に至っては半分気絶していた。 「おまえは何でいきなりこんな所に居るんだよ……」 半分気絶した澪の肩を抱えながら、私はおずおずといちごに訊ねてみる。 いちごは私の言葉に反応せず、憂ちゃんの弁当のおむすびを淡々と食べ続ける。 女の子座りな上に両手でおむすびを頬張るそのいちごの姿は、悔しいくらい絵になっていた。 って、そんな事は今はどうでもよかった。 私は意を決して、もう一度いちごに訊ねようと口を開く。 「だから、何でおまえは……」 その言葉はいちごが急に私の方に掌を向ける事で制された。 しばらく黙ってて、という意味らしい。 釈然としなかったけど、こういう時のいちごには何を言っても無駄だろう。 私は小さく溜息を吐いて、 とりあえず手の中の澪の肩を揺さぶりながら待つ事にした。 澪の意識がはっきりし始めたのと同じ頃、 いちごは手に持っていたおむすびを完全に食べ終わっていた。 軽く私に視線を向け、淡々とした口調でいちごが喋り始める。 「食べてる時に話し掛けないで。行儀が悪いでしょ」 お利口さんか、おまえは! そう言いたいのを私はぐっと堪える。 まずは疑問をいちごにぶつける方が先決だと思ったからだ。 「それでおまえはどうしてここに居るんだよ」 「居たら駄目?」 「いや、そういうわけじゃなくて、ここに居る理由をだな……」 やきもきしながら私が言うと、 いちごが表情を変えずに自分の隣に座っている人物に視線を向けた。 その人物とは、いちごの存在に驚いてなかった内の一人……、さわちゃんだった。 一斉に私達の視線をさわちゃんに集中させると、 さわちゃんは「てへっ」と可愛らしい感じに舌を出しておどけた。 「実はね、さっきお弁当を頂いてる時に、音楽室の外に人の気配を感じたのよ。 誰かと思って見に行ってみれば、若王子さんじゃない。 折角だから音楽室の中に誘って、一緒にお弁当を食べてもらう事にしたのよ。 いいじゃない。クラスメイトじゃないの」 「それは教師として正しい行動だと思いますが、それを皆に伝える事を忘れないで下さい。 報告、連絡、相談のホウレンソウを欠かさないで下さい」 わざわざ敬語まで使って、私はさわちゃんに伝えてやる。 悪びれた風でも無く、さわちゃんは楽しそうに笑う事でそれに応じた。 「いやー、若王子さんの眼鏡姿に見入っちゃってて……」 「うんうん。それは分かるよ、さわちゃん!」 急にさわちゃんに賛同したのは目を輝かせた唯だった。 身を乗り出しながら、少しだけ興奮した様子で唯が続ける。 「前からお姫様みたいに可愛いって思ってたけど、 いちごちゃんにこんなに眼鏡が似合うなんて思ってなかったよ! お姫様なのには違いないんだけど、 それに知的な感じが加わったって言うか……、とにかくすっごく可愛いよ!」 「流石は唯ちゃん。 分かってるじゃない。可愛い物を見極める目はやっぱり確かね」 可愛い物を愛するという点では似通った二人が、 初めて目にするいちごの眼鏡姿を見ながら、だらしなくにやける。 何をやってるんだ、と思わなくもないけど、その点については私も同意見だった。 眼鏡を掛けたいちごの姿は、こう言うのも悔しいけど、はっとするくらい可愛かった。 言うならば、まさしくモエモエキュン……ってか? いちごも一応ツインテールではあるんだけど、 梓とは違っていちごのツインテールだと眼鏡も似合うから不思議だ。 可愛い子は何をやってても可愛いから得だよなあ……。 別に梓が可愛くないってわけじゃないけど、いちごはどうにも別格なんだよな。 いやいや、いちごの可愛さに見惚れてる場合じゃない。 私は意識がはっきりした澪をその場に置き、いちごの近くにまで歩いていく。 梓にいちごの隣を空けてもらい、私はいちごの隣にそのまま腰を下ろす。 いちごが軽く私に視線を向けた。 「何か用?」 「結局、いちごが何しに来たのかと思ってさ」 「様子を見に」 「様子……って軽音部の?」 「うん」 「それならそう言ってくれりゃいいじゃんか。 こんな驚かすような事しなくても、 普通に訪ねてくれればいちご姫をもてなしてたのに……」 「驚かすつもりなんてない」 少しだけいちごの声が変わった。 声色はほんの少し低く、声の速度もゆっくりになっている。 表情も無表情には違いなかったけど、何処か強張ってるみたいにも見える。 「律が気付かなかったんでしょ」 いちごが続け、私から視線を逸らす。 そこでようやく、いちごが不機嫌になってるんだって事に私は気付いた。 言われてみれば、さわちゃんの様子を見る限りは、 さわちゃんもいちごも、別に私達を驚かそうとして隠れてたわけじゃないみたいだ。 いや、そもそもいちごは隠れてたわけじゃない。 自分の存在こそ主張しなかったけど、普通に音楽室の中で座ってただけなんだ。 憂ちゃんや和を含む何人かはいちごに気付いてたみたいだし、 単にアキヨや唯と話すのに夢中になってた私が、いちごの姿に気付かなかっただけらしい。 これはいちごに悪い事をしてしまったかもしれない。 私は私から目を逸らすいちごの背中を軽く擦った。 この前、いちごが私にしてくれた事だった。 そうしたのは、こうすればいちごが私の方を向いてくれるはずだと思ったのもあるけど、 何より私がいちごの存在や優しさを忘れたわけじゃないって事を伝えたかったからだ。 「ごめんな、いちご。怒らないでくれよ。 まさかいちごが部活の様子まで見に来てくれるなんて思ってなかったんだよ。 気が回らなくてごめんな。それ以上に、ありがとな。 私達の事を気に掛けてくれるなんて嬉しいよ」 「別に、怒ってない」 またいちごが私に軽く視線を向ける。 無表情なままではあるけど、声色は柔らかくなってる気がした。 少しは私の事を許してくれたんだろうか。 いちごの顔を覗き込んでから、私は微笑む。 気難しいクラスメイトだけど、私達の事を気に掛けてくれてる。 私を助けてもくれた、優しい子なんだよな。 その事がとても嬉しかった。 「律は」 不意にまたいちごが呟くみたいに言った。 いちごの背中に手を置きながら、私はいちごの瞳を覗き込んで見る。 何故だか、眼鏡の奥の瞳が少し潤んでるように見えた。 「律は大丈夫なんだね」 火曜日の事を言ってるんだろう。 確かに火曜日の私の様子は酷かったよな。 吐いた上に青白い顔もしてたみたいだし、精神的にも最悪だった。 いちごが私のその後を気にするのも無理は無いだろう。 これはいちごに前向き元気なりっちゃんを見せてやらないとな。 だから、私は何かを言うよりも、歯を見せるくらいただ大きく笑った。 私の心からの笑顔を見せたかった。 恐怖と絶望に負けそうだった私を最初に引き戻してくれたのは、誰あろういちごなんだ。 今、私が皆と笑えてる最初のきっかけをくれたのは、いちごだったんだ。 ありがとう、いちご。 その想いを込めて、私にできる最高の笑顔をいちごに向けていたい。 しばらくその顔を向けていると、いちごがとても意外な表情を見せた。 口の端を上げて、目尻を柔らかく下げて、 軽くとだけど、それは確かに……、初めて見るいちごの笑顔だった。 「よかった」 いちごがそう言って、すぐにまたいつもの無表情に戻った。 でも、笑ってくれていたのは確かなはずだ。 その瞬間、私はとても自意識過剰な考えを抱いていた。 ひょっとすると、いちごは軽音部じゃなくて、私の様子を見に来てくれたのかもしれない。 他の誰よりも私の事を気にしていてくれたのかもしれない。 だから、私がいちごの姿をすぐに見つけられなかった事に、不機嫌になってたのかもしれない。 恥ずかしくなるくらい自意識過剰だけど、私にはそう思えてならなかった。 何だかすごく照れ臭い気分になりながら、私はまたいちごの背中を擦る。 「ありがとな。本当にありがとう、いちご」 「いいよ。律が元気なら。 元気じゃない律は、律じゃないから」 「何だよ、それ」 言って私が笑うと、いちごは少し目尻を細めた。 すごく温かい雰囲気。 胸がいっぱいになりそうだ。 不意に。 恐ろしいほど多くの視線を感じた。 私は恐る恐る周囲を見回してみる。 気が付けば、私達を様々な感情が宿った視線が包んでいた。 まず和と高橋さんが苦笑して、 ムギはうっとりとして、 アキヨは照れた様子でチラチラと、 憂ちゃんは顔を少し赤く染め、 さわちゃんと唯は若干楽しそうにしていて、 梓が心配そうに澪と私の顔を交互に見ている。 そして、澪は……、えっと……、その……、何だ……。 嫉妬に狂った顔とかならまだよかったんだけど、 よりにもよって今にも泣き出しそうな表情で私達に視線を向けていた。 気まずい……。 別にいちごと私がそんな関係ってわけじゃないし、 いちごだってクラスメイトとして私を心配してくれただけなのに、何だかすごく気まずい。 澪には後で二人きりになった時にフォローしておく事にするとして、 私はどうにか話を誤魔化すようにいちごに話を振ってみた。 「そういやさ、いちご。 前も聞いた話だけど、いちごは何しに毎日学校に来てるんだ? バトン部の活動もしてるみたいだけど、毎日じゃないみたいだしさ。 でも、いちごは毎日登校して来てるだろ? よかったらでいいんだけど、それがどうしてなのか教えてくれないか?」 「あ、それは私も気になるな」 私の言葉に続いたのは高橋さんだった。 そういえば、高橋さんも図書室でたまたまいちごに会ったって言ってたよな。 「そうね。もしよければ、私にも教えてもらえるかしら? 若王子さん、先週くらい生徒会室に見学に来たじゃない? 若王子さんが生徒会室に来るなんて意外だったから、驚いたわ。 何か込み入った事情があるのなら、話を聞くのは諦めるけど……」 そう言ったのは和だ。 和の言葉通りなら、いちごは図書室だけじゃなく、生徒会室にも出没してたらしいな。 そういや、そもそも何でいちごは火曜日に音楽室の近くに居たんだ……? 「いちごちゃん、毎日、何してたの?」 「教えてくれると嬉しいな」 「図書室や生徒会室に若王子さんって組み合わせも意外よね」 質問がいちごに集中する。 普段から謎の多いいちごなだけに、 皆いちごの真意が気になって仕方が無いみたいだった。 勿論、私もそうだけど、私が振った話題なだけに、 それを無理矢理いちごに答えさせる形になるのは、言い出しっぺとしていちごに悪い気がする。 両腕を左右に広げ、「ストップ、皆」と言おうとした瞬間、いちごが口を開いた。 「じゃあ、律にだけ教えてあげる」 「へっ? 私っ?」 思わず私は間抜けな声を出してしまっていた。 まさかいちごがそんな事を言い出すとは思わなかった。 まあ、全員に知られるよりは、誰か一人にだけ話す方が気が楽なんだろう。 いや、いちごってそういう事を考えるタイプだっけ? もう一度覗き込んでみたいちごの表情からは何も掴めない。 「いいなー、りっちゃん。 いちごちゃんは私の心の友なのに、りっちゃんだけずるいなー」 羨ましそうに唯が呟く。 いつからいちごとおまえが心の友になったんだ。 もしかしたら、唯にとってはクラスメイト全員が心の友なのかもしれないけどさ。 「悪いな、唯。 おまえはいちごの心の友かもしれんが、私はいちごの心の故郷だからな」 冗談のつもりだったけど、 その言葉を聞いた澪がまた泣き出しそうな表情になった。 おいおい、またかよ……。 でも、澪の気持ちも分からなくはないか。 今までの関係ならともかく、 友達以上恋人未満っていう複雑な関係の今じゃ、細かい事が気になっちゃうんだろうな。 それは私も同じで、私もムギと澪の関係を気にしちゃったりもしてたからな。 そんな事があるはずないと分かってても、どうしても不安になっちゃうんだ。 それだけ澪が私にとって特別な存在になってきてるって事なんだろう。 勿論、それはまだ口に出して澪には言えないけど……。 39